ハリルジャパン、強化の最終局面へ 霜田正浩が語るロシアでの“成功の鍵”

元川悦子

ハリルホジッチ監督もたらした「新たな価値観」

最終予選の途中でチームを離れた霜田。現在はSTVVのコーチとして、新たな一歩を踏み出している 【六川則夫】

――霜田さんが予選の途中で辞意を伝えた時、ハリルホジッチ監督はどんな反応をしましたか?

「バカ」と言われましたね(苦笑)。冗談だと思って、そういう反応をしたのでしょう。「自分のやるべき仕事はやってきた。新しい体制に引き継ぐ時期がきた。新たな一歩を踏み出したい」と説明すると、「それなら仕方ない」と納得してくれました。

 最終予選の途中でチームを離れるのは申し訳ないという思いもありましたが、現技術委員長の西野(朗)さんとは1年間一緒に仕事をしてきて、ヴァイッドとやってきたことを伝えましたし、16年11月のホームでのサウジアラビア戦(2−1)の試合を見て、最終予選は大丈夫だと確信できた。安心して離れることができました。

――その後は遠くから代表を見ていますが、予選突破を決めた8月のオーストラリア戦(2−0)を見て、どのように感じましたか?

 アウェーのオーストラリア戦(16年10月)には私も帯同していたので、ヴァイッドといろいろなことを話しました。(先制したものの)結果的にはPKで追いつかれて1−1で引き分けましたが、日本はきちんとした守備を構築し、攻撃面でも3〜4回チャンスを作れた。内容的には悪くなかったと思います。

 その時と相手に違いがあるとすれば、4バックから3バックに変更したことくらい。戦い方に大きな変化はない。となれば、日本としてはアウェー同様にブロックを作って守備をコンパクトにするか、逆にボールをつながせないくらい前からアグレッシブにプレスをかけるか。結果、ヴァイッドは後者を選び、ホームの利を生かしながら、選手たちの気持ちを前向きに持っていき、成功を収めたと思います。前向きに守備ができる井手口陽介、(山口)蛍、長谷部(誠)を中盤に配置し、長谷部の指示で蛍と井手口がプレスにいく形で、うまくはまっていました。

 日本代表は幸か不幸か、長年“10番タイプ”の選手がいて、「そういう選手がいるのが当たり前」という雰囲気になっていたけれど、ヴァイッドは異なる価値観をもたらした初めての監督と言えるかもしれません。とはいえ、彼はもともとトップ下は使いたい監督。今後はエデン・アザール(チェルシー)やフィリペ・コウチーニョ(リバプール)のように、攻守両面でハードワークできる10番が理想になってくると思います。

新戦力の積み上げが、ロシアでの成功の鍵に

本田、岡崎、香川が招集外となったことに関して、霜田はどう考えているのだろうか? 【写真:ロイター/アフロ】

――予選からチームをけん引してきた本田圭佑、岡崎慎司、香川真司の“ビッグ3”が11月の欧州遠征で招集外となったことを、どう捉えていますか?

 ブラジル大会の時は軸だった長谷部や内田(篤人)が大会直前に負傷したこともあって、チーム全体が難しくなってしまった。ロシア大会で躍進しようと考えるなら、誰が抜けても戦える集団を作らなければいけない。今は戦力の分母を増やすことが肝心です。本田、岡崎、香川が呼ばれないというのは、戦力の層が厚くなる可能性があるということ。彼らは経験があり、実績も積み上げているので、戦うコンディションが整えば間違いなく計算できる戦力です。最後の最後に呼んでも、十分に力を発揮できる。それ以外の新たな戦力を作っておくことが、ロシアでの成功の鍵になると僕は思います。

 今回のブラジル、ベルギーとの2連戦におけるメンバー選考はチャレンジングだと感じます。強豪相手だからこそ、よりコンディションのいい選手が必要だとヴァイッドは考えたのでしょう。とにかく、「コンディションのよさ」というのは彼のサッカーを実践するうえでの絶対条件だと痛感しています。

 09年から8年間、代表チームを見てきましたが、チームにはバイオリズムというものがある。本大会でそれが最高になればベストです。ブラジル大会もリオデジャネイロ五輪も、それをピークに持っていくことができなかった。その反省を踏まえると、今の時期は苦労している方がいいのかもしれません。選手たちが熾(し)烈な競争を経て調子を上げ、個人もチームも本番でトップフォームを出せるようにする。ヴァイッドにはそういう方向へと導いてほしいですね。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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