パワーから機動力を生かした野球へ 金属バットを知らない若き韓国代表

室井昌也

「アジア プロ野球チャンピオンシップ」に出場する韓国・宣銅烈監督(写真右)。今回のチームの特徴に「機動力」を挙げた 【写真は共同】

 日本、韓国、台湾のプロリーグに所属する24歳以下(1993年1月1日以降生まれ)、または入団3年目以内の選手が出場する新しい国際大会「アジア プロ野球チャンピオンシップ」。11月16日から東京ドームで行われるこの大会で、日本は韓国と初戦で対戦する。

 これまでの韓国というと李大浩(イ・デホ/韓国ロッテ)、金泰均(キム・テギュン/ハンファ)を代表とした「パワー」のイメージが強いが、今回のメンバーは彼らとは異なるタイプの面々が揃った。

 24歳以下の代表チーム、それは韓国では「高校野球で金属バットを使っていない世代」ということになる。韓国はアマチュア国際大会の規定変更に合わせて、2004年8月から高校野球での金属バットの使用を禁止。今回のメンバーでは1988年生まれ(プロ3年目)の張必峻(チャン・ピルチュン/サムスン)を除き、高校時代から木のバットで戦ってきた。

 高校野球部は金属バットを使わなくなったことで、勝つために長打よりも走者を先に進める攻めに重点を置いた。結果として足の速い選手がチームの中心選手となりプロに進んでいる。そんな打者に対し、投手もパワーよりも制球力を重視して育てる傾向が強くなっていった。

 今回の韓国代表を率いるのは韓国初の代表専任監督となった宣銅烈(ソン・ドンヨル)。現役時代は日本でも1996年から4年間、中日でクローザーとして活躍した韓国の英雄だ。宣銅烈監督は記者会見で今回のチームの特徴に「機動力」を挙げた。メンバーには今の韓国球界を現す、足が自慢の選手が揃っている。

3番候補は李承ヨプの後継者

今回の韓国代表で第4回WBCに唯一出場している金ハソン。走攻守3拍子そろい、今大会でも4番を期待されている 【Getty Images Sport】

 上位打線には高卒新人ながら全144試合に出場し、主に1番打者として打率3割2分4厘を残した左打ちの外野手の李政厚(イ・ジョンフ/ネクセン)が座る。李政厚は179安打(リーグ3位タイ)、111得点(同3位)を記録し、シーズン新人最多安打、最多得点記録を塗り替えた。巧みなバットさばきと俊足で大ブレイクした李政厚だが、端正な顔立ちに加え、父が中日でもプレーした韓国球界のレジェンド・李鍾範(イ・ジョンボム)という、スター性抜群のプレーヤーだ。今大会では父・李鍾範もコーチとして代表入りし、親子で同じユニフォームをまとって戦う。

 またシーズン中、主に2番に座りリーグ3位の打率3割6分3厘をマークした二塁手の朴ミン宇(パク・ミンウ/NC)も走れる左打者だ。近年は左太もも裏の故障で盗塁数は減っているが、2014、15年には2年連続45盗塁以上を記録した実績がある。

 さらに3番候補の具滋ウク(ク・ジャウク/サムスン)は今季限りで引退したチームの先輩・李承ヨプ(元巨人など)が自身の後継者として面倒を見ていた若きスター選手。今季全試合に出場し、3年連続打率3割を記録。打線の中軸として21本塁打、107打点を残す一方で、果敢な走塁も魅力だ。

 そして今回の代表選手で唯一、トップチームの経験がある4番候補の右バッター・金ハソン(キム・ハソン=ネクセン)も23本塁打、114打点と4番の役割を果たしながら、16個の盗塁を決めている。今年は自身初の打率3割に到達し、2016年には20本塁打28盗塁を記録。韓国球界でトリプルスリーが狙える選手の1人だ。

抑えは米国帰りのパワー系右腕

 一方の投手陣は宣銅烈監督が「リーグ自体が打力に比べて投手力が落ちる。守る野球をするのは厳しい」と話す程、当初の評価は低かった。しかし先月行われた今年のリーグチャンピオンを争うポストシーズンで代表入りの投手陣が活躍。大舞台での好投は今大会への光明となった。またもう一つの弱点であった捕手でも韓承澤(ハン・スンテク/KIA)が韓国シリーズ第2戦でエースを完封に導く好リードを見せ期待を持たせている。

 先発または第2投手候補は右のパワーピッチャーの張現植(チャン・ヒョンシク/NC)、制球力があるサイドスローの林起映(イム・ギヨン/KIA)、チェンジアップが武器の左腕・咸徳柱(ハム・ドクチュ=トゥサン)、フォークが決め球で今季12勝の朴世雄(パク・セウン/韓国ロッテ)と顔ぶれは多彩だ。この他にもシーズン中に先発経験のある、左の具昌模(ク・チャンモ/NC)、右の金大鉉(キム・デヒョン/LG)らが状態次第で先発起用ということもあるだろう。抑えには米国・マイナーリーグ帰りで今季21セーブのパワー系右腕・張必峻が控えている。

 この大会はオーバーエイジ枠が3人まで設けられ、日本は又吉克樹(中日)、甲斐拓也(福岡ソフトバンク)、山川穂高(埼玉西武)、台湾は陽岱鋼(巨人)らをメンバーに含めたが、宣銅烈監督は未来を見据えてこの枠を使っていない。「組織力を見せたい」と意気込みを語った宣銅烈監督。これまでとは違う新しいタイプの韓国代表が初代王者に向けて挑んでいく。
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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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