絶体絶命のピンチを救ったインターセプト 集中連載「ジョホールバルの真実」(14)

飯尾篤史

山口がインターセプトしたボールを名波が回収し、左サイドに大きく展開した 【写真:アフロ】

 城彰二と呂比須ワグナーの投入から10分が経った。
 その間、日本は一度もピンチを迎えることなく攻め続けたが、イランのゴールをこじ開けられずにいた。
 後半19分、城のヒールパスから中田英寿が左足で狙ったが、ゴール右に逸れた。
 後半21分、名波浩のクロスに呂比須がヘッドで合わせたが、バーの上を越えていく。
 後半27分、名良橋晃のクロスを呂比須が頭でスラし、城がシュートを放ったが、飛び出してきたGKアハマドレザ・アベドザデに阻まれた。
 ゴールは少しずつ近づいていたが、残された時間も少しずつ減っていく。
 後半29分、相馬直樹がドリブルで仕掛け、日本はこの日、3本目のコーナーキックを獲得した。左のコーナーに中田が立つ。右足で蹴ったボールは、ゴール前でイランDFのクリアに遭った。
 そのボールを名波が奪いにいったが、こぼれ球が運悪くアリ・ダエイに渡り、センターサークル付近までドリブルを許してしまう。
 コーナーキックのチャンスに総攻撃を仕掛けていたため、手薄になっている日本の右サイドのスペースを狙って、イランの選手が走り出す。
 ダエイのスルーパスが通れば、間違いなくGKと1対1の状況を作られるだろう。ここで2点差を付けられたら、日本の敗北は決定的――。

 そのとき、山口素弘がダエイの前に立ちはだかった。山口は恐ろしいほど冷静だった。
「ダエイがドリブルを始めたとき、ベンチのほうでゴンちゃん(中山雅史)とカズー(三浦知良)が騒いでいるのが見えたんです。4年前にもイランにカウンターでやられたでしょう。たぶん、ゴンちゃんやカズーもそれを思い出して『危ないぞ!』という感じだったんだろうけど、僕の頭の中にもそのシーンが浮かんでいて」
 93年にカタールのドーハで集中開催されたワールドカップ米国大会のアジア最終予選。初戦でサウジアラビアと引き分けた日本は2戦目でイランと対戦した。先制された日本は猛攻を仕掛けたが、カウンターから若き日のダエイに決勝ゴールを決められる。その後、中山のゴールで1点を返したが、1−2で敗れた。
 5戦目のイラク戦で「ドーハの悲劇」が起きたが、予選敗退の真の要因は、このイラン戦の敗戦にあったとも言われている。
 そんな4年前の試合が頭をよぎるほど、山口は落ち着いていたのだ。
「これは自分が止めるしかない、ということで、あえてコースを空けて誘ったら、ダエイはまんまとそのコースにスルーパスを通そうとした。ダエイはパス能力があまり高くないからね。狙い通りだった」
 山口がインターセプトしたボールを、帰陣した名波が回収した。千載一遇のチャンスを逃したダエイが頭を抱えて立ち尽くす間に、名波は左サイドに大きく展開した。
 そのサイドチェンジの先には、タッチライン際で待つ中田がいた。

<第15回に続く>

集中連載「ジョホールバルの真実」

第1回 戦士たちの休息、参謀の長い一日
第2回 チームがひとつになったアルマトイの夜
第3回 クアラルンプールでの戦闘準備
第4回 ドーハ組、北澤豪がもたらしたもの
第5回 焦りが見え隠れしたイランの挑発行為
第6回 カズの不調と城彰二の複雑な想い
第7回 イランの奇策と岡田武史の判断
第8回 スカウティング通りのゴンゴール
第9回 20歳の司令塔、中田英寿
第10回 ドーハの教訓が生きたハーフタイム
第11回 アジジのスピード、ダエイのヘッド
第12回 最終ラインへ、山口素弘の決断
第13回 誰もが驚いた2トップの同時交代
第14回 絶体絶命のピンチを救ったインターセプト
第15回 起死回生の同点ヘッド(11月10日掲載)
第16回 母を亡くした呂比須ワグナーの覚悟(11月11日掲載)
第17回 最後のカード、岡野雅行の投入(11月12日掲載)
第18回 キックオフから118分、歴史が動いた(11月13日掲載)
第19回 ジョホールバルの歓喜、それぞれの想い(11月14日掲載)
第20回 20年の時を超え、次世代へ(11月15日掲載)

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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