【ライフスキルトレーニング】事後グループコーチングレポート②

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【JAAF】

日本陸連は、学生アスリートのパフォーマンス向上とキャリア自立の両面に寄与すべく、2020年度から「ライフスキルトレーニングプログラム」を実施しています。今期も、昨年末から10名の5期生に向けたプログラムがスタート。今年に入ってからは1月19日に第2回全体講義が、2月8日には第3回全体講義が行われました。
今回は、これらの全体講義と、その都度出された課題への取り組みを踏まえて、2月26~27日に、3グループに分かれて実施されたグループコーチングの模様をご紹介しましょう。

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グループコーチングレポート

全4回で構成されるスポーツ心理学博士の布施努特別講師による全体講義は、受講者たちが「自分の最高を引き出す技術」を獲得し、使いこなしていくための土台となる事柄を身につけていく場。スポーツ心理学のエビデンスに裏づけられた基礎的な知識を学ぶのと並行して、さまざまな事例に触れるなかで、物の見方や考え方の幅を広げ、試行錯誤を繰り返しながら実践に取り入れるためのノウハウをつかんでいきます。最初は、一つ一つの事柄に恐る恐る対応していた受講者たちですが、回を重ねるごとに理解の解像度が上がり、学んだことを自身の行動へ落とし込んでいくことができるように。例年、3回目の全体講義を終えるころになると、その変化が目に見えて現れてきます。

この解像度を一気に高める機会となっているのは、実はグループコーチングなのかもしれません。3~4名に分かれた小グループで実施され、直近の全体講義で出た課題への取り組みについて、各受講者が実施してきたこと、そこで気づいたこと、課題に感じていることなどをそれぞれに報告。そのなかからテーマを絞って意見交換や情報共有を行います。参加する個々が取り組んできた内容がそれぞれに異なるため、当然、取り上げられるテーマも、各グループによって違ってきますし、ポイントが置かれる観点も、そのときどきで変わってきます。よりパーソナルかつ身近な事柄が題材となるため、受講者たちは、まさに「自分ごと」として考え方や向き合い方を深める形となり、結果として大きなブレイクスルーに繋がるようです。

このグループコーチング、第5期においては第1回全体講義後となる昨年の12月末に、一度実施されています( https://www.jaaf.or.jp/news/article/21328/ )が、2月26~27日に、2回目となるグループコーチングが3グループに分かれて行われました。今回は、瀧野未来(立命館大学1年、400mハードル)、渕上翔太(早稲田大学1年、400mハードル)、白土莉紅(日本大学2年、走幅跳)の3選手が参加したグループコーチングを取材しました。

このグループコーチングでは、まず、前回の(第3回)全体講義で課題として出されていた「自分にとって内発的動機付けになるもの書きだす」について共有することからスタートしました。3人は、布施特別講師に提出した内容を、1人ずつ発表。布施特別講師は、それぞれに質問したり、ほかの人に意見を求めたりするなかで、
・どういうものが「内発的動機」となるのか、
・「内発的動機」は結果でなく、過程に見出せる場合もある、
・「内発的動機になるもの」は、コンロトールできるもの。コアなところにあるものがよい、

などを浮き上がらせていきました。

続いて行われたのが、3人でのディスカッションです。「じゃあ、ここまで出てきたみんなの事例を使って、内発的動機付けへの理解を深める話し合いをしてみよう。誰か、仕切り役をやってみたい人はいますか?」という布施特別講師の呼びかけに、白土選手が手を上げました。そして、「なるべく突っ込んだ話をしていきたい。内容に正解はなく、それぞれの“こう思う、ああ思う”をいろいろ話し合うことがポイント。みんなをうまく巻き込んで、話を進めてみよう」という布施特別講師のアドバイスを参考に、ディスカッションがスタートしました。
白土選手が、「内発的動機付けを深掘りする」というテーマで、渕上選手・瀧野選手とやりとりを重ねていくなかで、白土選手自身も含めて、3選手がそれぞれに独自の視点を持っていること、物事の取り組み方には似ているところもあれば全く異なるところもあること、アプローチの仕方に違いがあることなどが、少しずつ見えてきました。布施特別講師は、ときどき間に入って、各選手が自身の考えをさらに深める問いを立てたり、他者の話を自分に置き換えるとどうなるかを尋ねたり、さらにはディスカッション自体をより深めていくためのヒントをアドバイスしたりしていきます。そうして3選手は、ライフスキルトレーニングで必要な考え方を深めていくのと同時に、「3人で言葉のキャッチボールをしてみよう」という布施特別講師の呼びかけに応えて、重要な“ライフスキル”の1つである“コミュニケーション”に取り組みました。

【JAAF】

グループコーチングならではの展開となったのは、その直後です。白土選手が、「言葉のキャッチボール」を活性化させるべく、自身が現在、トレーニング場面での取り組みで悩んでいることを明かすと、それがきっかけとなって、話題は、「うまくいかない課題を解決していくために、問題をどう整理し、どういう考え方で向き合っていけばいいのか」という方向に舵を切ったのです。

当事者である白土選手自身がより深く考えていけるよう、ここからは布施特別講師が進行役を引き取ることに。布施特別講師からの問いや選手同士の会話のなかで、各選手の「自分は、どう考えるか。どう取り組んでいるか」が言語化されていきました。そして、「“なぜ、そうするのか”を考え、しっかり理由付けして取り組むタイプ。だからうまくいかないと判断したときは、バサッと捨てて、別の方法を考える」(渕上選手)、「いろいろな人の意見を聞きたいし、入ってきたことは自分に取り入れたいタイプだが、優先順位をつけづらく、何を捨てたらいいのかがわからない」(白土選手)、「どちらかというと感覚的にやるタイプ。うまくいかないときは、“捨てる”でなく、“いったん置いておく”。別のことをやっているうちに、できなかったことができるようになっている場合もある」(瀧野選手)と、向き合い方に違いがあることが浮き彫りになりました。

布施特別講師は、「人には、それぞれに得意とするタイプがあって、それはどれがいいとか、悪いとかいうものではない」ことを示したうえで、「私たちの頭のなかには、いろいろな“暗黙知”が重なっているが、それを“形式知”にしていく過程は個々のタイプで異なる。うまく形式知にできないとき、違うタイプの人の視点で物事を見られるようになると、それは自分の武器になっていく。また、世界が舞台になったときなど、自分のやり方を超えて、さらに上を目指さなければならなくなったとき、今の段階でそれができるようになっておくと大きな強みになる」と、“役割性格”の活用につながる考え方を示しました。

グループコーチングでのやりとりを終えて、渕上選手は「すごく自分のためになった」、瀧野選手は「こんなにも3人の考えが違うなんて面白いなと思った」と、それぞれに感想を述べていました。また、「白土さんが自分のディープな悩みを出して、話題を内面の深いところに切ってくれたから、こういう話ができた」と布施特別講師も振り返ったように、このグループコーチングならではの貴重な議論のきっかけを提示した白土選手は、「とりあえずは、優先順をつけることをやってみようと思う」とコメント。取り組み方の幅を広げて、課題に向かっていくことになりそうです。


文・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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