昇格の夢が絶たれた今治に求められるもの JFL参入1年目、問われる「真価」

宇都宮徹壱

FC今治の「真価」が問われるホンダロック戦

台風22号の影響を受けて、30分遅れでキックオフとなったFC今治のホームゲーム 【宇都宮徹壱】

 FC今治の広報スタッフから電話をもらったのは、試合前日の10月28日、18時頃のこと。徳島での取材を終えて、高松駅で急行「いしづち」に乗り換えた直後であった。電話の内容は、台風22号の影響で設営の準備が遅れていること、明日はキックオフの変更、もしかしたら試合そのものが中止になるかもしれない、ということだった。今治を取材して3シーズン目になるが、幸いにしていつも試合日は好天に恵まれていた。「中止になるかもしれない」くらいの悪天候は今回が初めてである。

 翌29日、JR新居浜駅から今治サポーターの友人の車に乗せてもらい、試合会場の夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)に向かってもらう。走行中、何度も大量の水しぶきが上がった。友人の話によれば、今日予定されていた「劇団EXILEの1日広報部長」は中止、「女子バスケットチーム、オレンジブロッサムとバスケットをしよう!」というイベントも中止となったそうだ。それでも試合そのものは中止にはならず、30分遅れの13時30分キックオフとなることが発表された。

 キックオフ40分前にスタジアムの駐車場に到着。想像していた以上に車の数が多いので、今日は何とか観客数2000人はクリアできそうだ。しかし、車を降りていささか絶望的な気分になる。夢スタの駐車場スペースは舗装されていないため、大雨で田んぼのようになっていて、あちこちに大きな水たまりがある。よく、雨の日の行事の定番スピーチに「本日はお足元の悪い中」というのがあるが、これでは足元が悪すぎだ。もともと屋根がない上に、駐車場は泥だらけで、長い階段もすべりやすくなる夢スタ。試合の臨場感が楽しめる反面、雨の日になると、さまざまな弱点が露呈したのは来季への課題である。

 劇団EXILEが来ない、雨でずぶ濡れになるのは必至、しかも今日の相手はホンダロックSC。昨シーズンのJFLで年間4位になった企業クラブだが、ヴァンラーレ八戸や奈良クラブのようにJ3昇格を競い合っている相手でもないので、正直なところ「客を呼びにくい」相手である。さまざまな悪条件が重なったことで、むしろ「FC今治のサッカーだけで、どれだけのお客さんが呼べるのか」が問われる一戦となった。換言するなら、今季の今治が取り組んできたことの「真価」が問われるのが、このホンダロック戦だったのである。

前節の敗戦で自力昇格がなくなった今治

FC今治の今日の相手はホンダロックSC。J3昇格のためには、目前の勝利が最低条件だ 【宇都宮徹壱】

 さて、取材で夢スタを訪れたのは、9月10日に行われたヴェルスパ大分戦(セカンドステージ第7節)以来のこと。その時点で今治は年間順位で6位だったが、J3昇格の条件である4位以内になる可能性を十分に残しており、岡田武史オーナーも「集客のほうもしっかりやっていかないと」と語っていたことを思い出す。今季は夢スタが完成するまでの間、県内の西条市や松山市、さらには広島県でもホームゲームを開催している。J3昇格の条件のひとつである「ホームゲームの入場者数が2000人以上」というハードルは、成績面と同じくらい重要視すべき課題であった。

 ところが夢スタのこけら落とし以降、肝心の成績面が振るわない。第8節のFC大阪戦は2−2の引き分け、第9節の八戸との直接対決はホームで1−2と敗れてしまう。続く第10節の東京武蔵野シティFC戦、そして第11節の奈良クラブ戦は、いずれも攻撃力が爆発して5−0、5−2と圧勝。ところが前節のソニー仙台戦では、いいところなく0−2で敗れてしまう。試合後、今治の吉武博文監督は「結果的には、今年1年を象徴する試合をしてしまった」と反省の弁を述べた上で、残り3試合については「最後までハードワークして、お客さまに勇気とパワーと元気を感じてもらえるようにしたい」としている。

 この時点で、今治の年間順位は6位と変わらず。ただし前節で敗れてしまったことで、自力昇格の可能性は消滅してしまった。このホンダロック戦で連敗すれば、J3への道は完全にたたれることになり、引き分けでも上位陣の結果次第で、来季もJFLで戦うことが決定する。思えば今季、ソニー仙台、FC大阪、そしてラインメール青森といった上位陣に勝ち越すことができなかったのは痛かった。しかしそれは、地域リーグからJFLに昇格したチームであれば、必ず直面する壁でもある。後半戦で今治の勝ち点が伸び悩んだのも、ある意味では予想の範ちゅうであった。

 むしろ個人的に気になっていたのが、夢スタ完成後のホームの集客。というのも、大分戦の5241人から下降線をたどっているからだ。八戸戦は4613人、武蔵野戦(広島県福山市で開催)が3576人。そして奈良戦は雨に祟られたこともあり、福山での試合よりも少ない3003人となった。問題は勝ち負けではなく、むしろ夢スタの空間がライト層にどれだけワクワク感を与え続けているか、という点に尽きるだろう。この日、大雨にもかかわらず、夢スタに来場したファンは2219人。果たして今治は、この人たちにどれだけワクワク感のあるサッカーを披露できるだろうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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