昇格の夢が絶たれた今治に求められるもの JFL参入1年目、問われる「真価」

宇都宮徹壱

ピッチの水たまりに苦しめられる今治

試合はホンダロックが決めて今治が追いつく展開。だが今治が勝ち越すことはなかった 【宇都宮徹壱】

 やや強い雨が降り続く中、キックオフ。ホームグラウンドであるにもかかわらず、序盤の今治はいかにもやりにくそうにサッカーをしている。その原因はすぐに明らかになった。パスしたボールが、水しぶきを上げながら止まってしまい、そのボールを相手にかっさらわれるシーンが続出したのである。夢スタのピッチは、実はあまり水はけが良くない。とはいえプレーしている選手も、もう少し考えてほしいところ。「そこに水たまりがあるのが分かっているのに、なぜ同じ場所でパスを出そうとするのか」と吉武監督が嘆くのも、もっともな話である。

 対するホンダロックは、相手のパスが止まるのを予測して、どんどん前に蹴っていく戦術を徹底した。その愚直な策が前半30分に実を結ぶ。今治DF陣の連係ミスを突いて、ゴール前で混戦状態を作り、最後は米良知記が左足で先制点をゲット。しかし、今治もすぐさま反撃に出る。前半32分にFKのチャンスを得ると、三田尚希のキックに長谷川将がヘディング。弾道はバーを直撃するも、中野圭がうまく拾って最後は片岡爽が右足で同点とする。前半は1−1で終了した。

 後半、今治は戦い方を明らかに変えてきた。それまでのパスワークをゴール前で限定、ペナルティーボックスまではドリブルで持ち込むようになったのである。戦術変更で今治のチャンスは格段に増え、シュートに至らずともボックスの手前でFKのチャンスを得るようになった。しかし、セットプレーで追加点を挙げたのはホンダロック。後半25分、諏訪園良平の正確なプレースキックに宮路洋輔が頭で決めて、再びホンダロックがリードする。正直、宮崎の企業チームが、ここまで今治を苦しめるとは予想外であった。

 とはいえ、ここで圧倒的な強さを見せつけられないのが、企業チームの厳しいところ。わずか2分後の後半27分、今治はDFの小野田将人がドリブルで前進し、左サイドに展開した長島滉大にパス。接近する相手DFとGKの間隙を突くように長島が折り返し、最後は桑島良汰が左足を伸ばしてネットを揺らす。これで2−2。しかし、喜んでばかりはいられない。急いでボールをセンターサークルに戻し、今治は残り18分にすべてを懸ける。だが、その後は何度となく惜しいシュートを放つものの、この日はホンダロックGK鶴崎智貴が目の覚めるようなセーブを連発。結果、両者は勝ち点1を分け合うこととなった。

Jクラブを目指すのなら「門番を倒してから」

2−2で試合が終わり、今治のJ3昇格の可能性は消滅。それでも今季の収穫は少なくない 【宇都宮徹壱】

 この試合が終わる30分前、4位のFC大阪はアウエーでHonda FCに0−0で引き分け、勝ち点を51に積み上げた。6位の今治との勝ち点差は7ポイントと変わらずだが、残り2試合で今治が勝ち点を6に積み上げてFC大阪が連敗しても、今治が4位に浮上することはない。そしてセカンドステージについても、首位Honda FCとの8ポイント差は縮まらず、ステージ優勝での昇格の可能性も消滅。このホンダロック戦での引き分けによって、FC今治の「J3昇格の戦い」は事実上終わった。「あっけない」とか「当然」とか言われても、何も言い返せない結末であったと言わざるを得ない。

 J3昇格を逃したことについて、吉武監督は「自分の責任」と潔く認めたが、この結果には受け入れ難いものがあったようだ。かねてより課題となっていた、セットプレーでの失点については「分析どおりだったけれど防ぐことはできなかった。牟田(雄祐)のような高さのあるセンターバックを補強しても解決できなかった」。その上で、「もっとベースを上げていかないと」と総括している。確かにこの日、今治はスリリングな試合を見せて観客をある程度は魅了したと思う。しかし、プロフェッショナルの興行を成立させるには、まだまだ積み上げが必要であることも事実であろう。

 今季のJFLが終わるまであと2試合あるが、その2試合を無駄にしないために、個人的に思うところを記しておく。まず、「JFLというカテゴリーは馬鹿にできない」ということだ。少なくとも、試合ごとに戦力にばらつきがあるJ3のU−23クラブに比べれば、上を目指さないHonda FCのような企業クラブのほうが遥かに手応えのある相手である。今治はもう1シーズン、こうした環境で切磋琢磨(せっさたくま)したほうが、今後のさらなる成長を見込めるのではないか──。否、もっとはっきり言おう。本当にJクラブを目指すのであれば、まずは「門番を倒してからである」と。その意味で、Honda FCとの最終節の結果は極めて重要である。

 一方、初めてのJFLの体験が今治サポーターに与えた影響についても、簡潔に言及しておきたい。FC今治は前身の大西SC、今越FC、愛媛しまなみFC時代を含めて、全国リーグを経験したのは今季が初めて。当然、サポーターにとっても、四国以外のサポーターとのファーストコンタクトとなった。全国デビューした彼らが、八戸や奈良の応援に圧倒されたのも当然の話だし、そこから何かを学んだのであれば、それこそが「JFL1年目の収穫」と言っても良いだろう。「もっとベースを上げていかないと」というのは、サポーターにも当てはまる言葉だと思う。

 岡田武史というカリスマが立ち上げた、「FC今治」というプロジェクトも来年で5年を迎える。当初の夢のような目標(あえてここでは書かない)から、もう少し地に足を付けた目標設定の見直しが必要な時期に来ているのではないか。もちろん、3シーズン目でJFLを戦えたこと、そしてJ3基準のスタジアムを完成させたことは大いに評価すべきことである。その上で、JFLというカテゴリーでもう1年戦いながら、新たに見えてくることもきっとあるはず。機会を与えられれば、来季もこのクラブをウォッチし続けたいと願う次第だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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