テニス界注目の18歳シャポバロフが描く夢「テニスを一番の人気スポーツに」

内田暁

ナダル戦に勝利、全米では4回戦進出

母国のマスターズ大会でラファエル・ナダルに勝利するなど、大舞台で存在感を発揮 【写真:ロイター/アフロ】

 シャポバロフのトレードマークとなった片手バックハンドも、母親のけい眼と助言が授けたものだ。彼は母親から「片手で打ってごらん」と言われた幼少期の日のことを、今もはっきり覚えているという。

「片手で打つって……ロジャー(フェデラー/スイス)みたいにってこと!」

 当時から羨望(せんぼう)のまなざしを向けてきた「アイドル」への敬意も推進力となり、彼は片手バックハンドに磨きを掛けた。その武器で、フェデラーの長年のライバルであるナダルを破り自信と勢いを得た彼は、その2週間後の全米オープンでは、客席からあふれ出るファンたちの好奇の目と声援を背に疾走し、予選から本戦4回戦まで、6つの劇的な勝利を奪い取っていった。

 全米オープン開催地のニューヨークからほど近い地元トロントでは、シャポバロフの活躍は熱狂とともに報じられ、彼の名前と顔は街の隅々にまで知れ渡る。その熱も冷めやらぬトロントに帰ってきたシャポバロフを、空港まで迎えに来たのは「コートを離れれば、本当に温厚で口調も穏やかな、優しいママ」である母親だった。

「お母さんからは『あなたを誇りに思う、素晴らしいプレーだった』と言ってもらえたよ。でも『数週間の後には、また自分のやるべきことに戻らなくてはいけない』……とも言われたんだ」

アイスホッケー熱の高い母国で「テニス人気を上げたい」

9月のトロント国際映画祭では、レッドカーペットを歩く経験も 【写真:Shutterstock/アフロ】

 今はスターとなったシャポバロフが、「自分のやるべきこと」にすぐに戻るのは、なかなか容易ではなかったようだ。

「トロントでは映画祭に参加して、レッドカーペットの上を歩いたりもしたんだ。全てが新しい経験で……たくさん写真を撮られ、少し歩いてはテレビのインタビューを何度も受けて……正直、あまり好きじゃないんだけれどね」

 金髪を揺らしながら、彼は照れたように笑う。「決して、取材が嫌だという訳ではないんだ。でもまだ慣れていないから、たくさんのインタビューを立て続けに受けていると、だんだん何を話して良いのかも分からなくなってきて……」

 インタビューを受けるのは、まだ気恥ずかしいと彼は言う。ただ町中を歩いている時に、多くの子供達にサインや写真を求められるのは「とてもうれしいし、モチベーションにもなる」のだと、18歳はあどけなさの残る笑顔に、プライドと自覚の色を添えた。

「僕のテニスでの究極の目標は、カナダでのテニス人気を上げることなんだ。今はカナダでは、アイスホッケーが他の競技を引き離して圧倒的な人気を誇っている。でも、ホッケーではなくテニスをやりたいと多くの子供達に思ってもらえるようになることが、僕の夢なんだ」

 急成長の季節を、どこまでも自然体で疾走する18歳は、近い将来「グランドスラムで優勝したい。特に、昨年にジュニア部門で優勝したウインブルドンで勝ちたいな」と言った。
 その夢がかなう時、「カナダでテニスを一番の人気スポーツにする」という究極の夢もまた、実現に近づいていく――。

シャポバロフへの一問一答 番外編

家族、友人、愛犬の話……コート外の素顔は、明るく人懐こい18歳の青年だ 【スポーツナビ】

 インタビューでは、今年の活躍、現在の心境などテニスの話題を中心に語ったシャポバロフ。競技以外の質問にも明るく答えてくれた。番外編として、一問一答の一部を紹介する。

――今季の“喜・怒・哀・楽”を教えてください。

「怒」と「哀」はないかな。とても素晴らしいシーズンだったからね。
「喜」は、カナダ・マスターズでラファエル・ナダルに勝ったこと。
「楽」は、全米の後に久しぶりに家に帰った時に、二匹の子犬たちのうれしそうな顔を見た時! 僕の顔を見た瞬間に、二匹は気が狂ったみたいにグルグル走り回って喜んでいたんだ。

――好きな食べ物は?

マクドナルドのフライドポテト。食べたら止まらなくなっちゃうから、なるべくマックには近寄らないようにしているよ(笑)。

――自分へのご褒美に食べてしまうものは?

「ティムホートンズ」というカフェがあって、そこの揚げドーナツ。トロントに帰ると、親友のジョニーがよく空港に迎えに来てくれるんだ。彼も「ティムホートンズ」のドーナツが好きだから、いつも買っちゃうんだよね。

2/2ページ

著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント