苦境の“BIG4”に迫る若手選手たち 男子テニスは世代交代の時代へ

内田暁

“テニス一家の末っ子”20歳のズベレフ

20歳のアレキサンダー・ズベレフ。“世代交代の旗手”として、注目度はますます上がっている 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

「僕も含めた多くのテニスファンにとって残念なことに、“BIG4”は永遠にプレーし続けられるわけじゃない。だから僕ら若い世代が活躍することは、テニス界にとって良いことだ」

 柔らかな金髪が揺れる端正な風貌に、彼は野心の気色を浮かべて断言する。

 今年5月のローマ・マスターズ(BNLイタリア国際)決勝で、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)を破りタイトルをつかんだ後のこと……。20歳のアレキサンダー・ズベレフ(ドイツ、世界ランキング6位)の戴冠は確かに、テニス界全体が長く待ち望んだ、“世代交代の旗手”出現の瞬間でもあった。

 プロ転向5年目の20歳は、テニスシーンにおいては新鋭であり、新顔の部類に属すだろう。だが“ズベレフ一家の末っ子”は、テニスの世界では10年以上前から、よく知られた存在だった。
 アンディ・マリー(イギリス)は今から3年前、17歳のズベレフを見た時に「あの時の男の子かい!?」と驚きの声を上げたという。アレクサンダーの兄のミーシャ・ズベレフ(ドイツ)は、マリーと同期の現在30歳。有望なジュニア選手であったミーシャは、10代前半の頃からマリーやジョコビッチらとともに、試合や練習でボールを打ち合う仲だった。そんな兄たちの傍らで、テニスコーチである両親と一緒に、じゃれるようにボールを追っていたのが、弟のサーシャ(アレクサンダーのニックネーム)である。

「君がまだ4〜5歳の頃、一緒に遊んであげたことを覚えている? 君はこんなに小さかったんだぞ」

 そう言いマリーは、腰のあたりで手をひらひらと翻した。
 その追憶の日々から15年たち、今や198センチの長身の若者に成長したズベレフも、幼少当時を述懐する。

「アンディやノバクとは、よくサッカーやテニスで遊んでもらった。僕にとって、彼らは世界一流の選手ではなく、単なる“お兄ちゃん”だったんだ」

 その“お兄ちゃん”たちと戯れながらテニスに親しみ、ツアー生活の空気を吸いながら育った彼は、いつしか「兄のように、自分もプロになりたい」と自然に思ったという。

 家族全員がテニス関係者という環境の中で、「テニスをさせられている」と感じたことはなかったか――?
 以前に彼にそんな質問をぶつけた時、未来のスター候補は「全くない」と即答した。
「それはそうだよ。むしろサーシャに、僕らはテニスを強要されてきたんだ」
 兄のミーシャが優しい笑みを浮かべ、弟の言葉を裏打ちする。
「僕が練習や試合を終えて疲れていても、サーシャは、僕とボールを打ちたがった。『疲れているから、今日は勘弁してくれ』と頼んでも、『ダメだよ、約束したじゃないか!』と彼は聞き入れてくれなかったんだ」

 物心がついた頃からラケットとボールに囲まれ育ったテニス一家の末弟は、3年ほど前から課題とされていたフィジカル強化に重点的に取り組み、また先月には、元世界1位のホアン・カルロス・フェレーロを“レジェンドコーチ”として招集した。トップを目指すことに疑問も迷いも抱かぬサラブレッドは、野心的かつ計画的に、頂点への道を大股で駆け上っている。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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