ドーハ組、北澤豪がもたらしたもの 集中連載「ジョホールバルの真実」(4)
10月14日の夜、北澤(左)は岡田から8月以来となる代表復帰を要請される 【写真は共同】
加茂周の解任後、「ウズベキスタン戦だけ」との条件で後任を引き受け、初陣を終えた岡田は、ここで選手を見捨てるわけにはいかないこと、帰国後に会った加茂に「頑張ってみたらどうか」と背中を押されたことなどを理由に監督続行を決断し、14日に日本サッカー協会と正式に契約を結んだ。
その夜、北澤は岡田から8月以来となる代表復帰を要請されたのだった。
「岡田さんから連絡があって、『今、見てのとおりの状況で、おまえを必要としている。ただ、この状況だから、おまえに意志がないと厳しい。自分で判断してくれ』と言われて、『もちろん、行きますよ』って答えたんだ」
10月26日に行われる第6戦、UAEとのホームゲームに向けた静岡キャンプは17日にスタートした。
2カ月ぶりに代表に合流した北澤が異変を感じ取るのに、時間はかからなかった。
アルマトイの夜にわだかまりは拭い去られたが、続くウズベキスタン戦に勝てなかったことで、チームは重苦しい空気に包まれていたのだ。
「雰囲気が明らかに暗いし、会話もない。まずはこの雰囲気を壊さないとダメだなと思った。それも食事の席とかで話し掛けるというより、グラウンド内でもっとぶつかり合わないと、みんなの腹の中にあるものが出て来ないなと」
食堂やリラックスルームでいろいろな世代に話し掛けるよりは、グラウンド内での激しいプレーで、チームに活気を取り戻す。北澤の取り組みはチームに変化を促した。
「キーちゃんが来て、雰囲気が引き締まりましたね」
そう証言するのは、トレーナーの並木磨去光だ。同級生のカズ(三浦知良)をもじった「ナズー」の愛称で親しまれ、付き合いの長い城彰二や川口能活、中田英寿らアトランタ五輪世代にとって兄貴的な存在であり、ムードメーカーでもある並木が、さらに続ける。
「戦闘モードになったんです。出番があるか分からない若い選手たちも、キーちゃんの醸し出すピリッとした雰囲気に触発されていましたから。あれはさすがでしたね」
代表に合流した北澤にとって気掛かりだったのが、左サイドバックの相馬直樹との関係性だった 【スポーツナビ】
「攻撃のときはダイヤモンドの中盤のトップ下に、守備のときは左サイドに入ってくれと言われて、自分がトップ下をするなら、そこにとどまっている理由はないなとか、サイドの人数が足りなくなるなとか。ヒデをどう生かすか、名波(浩)やモト(山口素弘)にいかに前を向かせるか、自分のタイプを考えれば、当然求められることだな、と」
中盤の選手たちとの意思の疎通や連係よりも、北澤にとって気掛かりだったのが、左サイドバックの相馬直樹との関係性だった。
名波のゲームメークと相馬の攻撃参加による左サイドからの崩しは、日本代表の生命線だった。しかし、それゆえに、相手チームの警戒や対策も厳しく、次第に名波−相馬のホットラインが寸断されることが増えていたのだ。
「以前はできていたことができなくなっていたから、それを蘇らせないと、という想いもあった。俺が守備に戻るまでの時間のかけ方とか、俺にボールが入ったら、もう出ていかなきゃダメだとか、相馬とはすごく話した。『だからダメなんだ』と、厳しいことも言わせてもらった」