メッシ、ついに母国で崇拝される存在に 極限状態で見せた最高のパフォーマンス

充実の時を過ごしているメッシ

メッシはエクアドル戦でハットトリックの活躍を見せ、自らの価値を示した 【写真:ロイター/アフロ】

 既に予選敗退が決まっていたエクアドルはアルゼンチンとの最終節に際し、暫定監督のホルヘ・セリコがヨーロッパでプレーするスター選手を招集せず、国内組のみのメンバー編成で臨んでいた。もちろん標高2,850メートルの高地でのプレーに慣れている利点はあったものの、戦前はアルゼンチンの優位が堅いものと見られていた。

 ところが驚くべきことに、エクアドルは開始1分足らずで先制してしまう。この時点でアルゼンチンの希望は脆くも崩れ去ったかに思われた。17年の公式戦を通じて、それまでアルゼンチンは流れの中からほとんどゴールを決めることができていなかった。そんなチームが極度にナーバスな精神状態で、戦術的な統制もとれぬまま、1試合で2ゴールを決められるとは思えなかったからだ。

 しかし、この窮地に何の前触れもなく最高のメッシが現れた。これまで幾多の試合で閃光のように相手ゴールを陥れ、勝負を決めてきたバルセロナのエースは、瞬く間にスコアを覆した。さらに後半にも美しいループシュートを流し込み、ハットトリックを達成したのである。

 アルビセレステのユニホームを着たメッシは、バルセロナでプレーする時のようなパフォーマンスを見せたことがない。多くのアルゼンチン国民からそのような批判を受けるたび、メッシはピッチ上で不当な評価を覆してきた。

 そして極めて重要な一戦で見せた今回の活躍により、人々は彼をアイドルの頂点に祭り上げた。エクアドル戦が終わってほどなく、SNS上にはメッシの顔をした聖人の絵がいくつも現れた。まるでこれまで彼はそのような子供には見向きもしてこなかったと言わんばかりに、メッシが体の不自由な子供(アルゼンチン代表の暗喩)にサインする映像も見られた。アトレティコ・マドリーとの大一番を控えたバルセロナに戻るころには、メッシはディエゴ・マラドーナに匹敵するほどアルゼンチン国民から崇拝される存在となっていた。

 今回の出来事は、来年のW杯に向けたターニングポイントとなるかもしれない。現在のアルゼンチンは前線こそトップレベルのアタッカーを何人も擁しているが、ディフェンスラインと中盤は人材が限られている。そのことを理解している大半の国民は、背番号10に悲願を託すことになる。

 メッシは今、充実の時を過ごしている。第3子の誕生を控え、ラ・リーガでは8試合で11ゴールを量産。バルセロナとアルゼンチン代表を合わせた17−18シーズンの公式戦全17試合では18ゴールを記録している。

 少年時代に成長ホルモンの分泌異常を克服したメッシは、その後バルセロナのトップチームに上り詰めただけでなく、あらゆる個人記録を塗り替えてきた。そして現在、彼はその輝かしいキャリアにおいて新たな一歩を踏み出すべく、自身を十分に評価していなかった人々の偏見を覆した。いまや彼は、フットボールに対して極めて厳しいアルゼンチンにおいて、議論の余地なき存在となったのである。

 メッシは今、充実の時を過ごしている。彼にはその権利がある。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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