連載:初めてのセイバーメトリクス講座

勝負強さって何? 走塁力No.1は誰? 初めてのセイバーメトリクス講座(4)

カネシゲタカシ

盗塁は成功率がポイント

新人ながら勝負強いバッティングと足でもチームの勝利に貢献した西武の源田 【写真は共同】

鳥越:さて、ここからは走塁の指標についてです。まず盗塁で表彰される人は盗塁王ですよね。16年、パ・リーグでは53盗塁で糸井嘉男(当時オリックス、現阪神)が取りました。

カネシゲ:確か史上最年長盗塁王でしたね。

鳥越:ただ、盗塁死も17個記録しているんですね。これは16年のパ・リーグ最多です。以前も出したこの表を見てください。盗塁の得点価値は「0.17」で、盗塁死は「−0.4」。つまり盗塁を2回成功しても、1回失敗するとマイナスなんです。

【資料提供:鳥越規央】

カネシゲ:すなわち、チームにとってはプラマイでマイナスということですね。

鳥越:はい。盗塁死というのはそれくらいリスクが高いんです。70%の成功率で、やっとトントン。80%とか90%の成功率がないとダメです。

カネシゲ:ほぼ成功しないといけないということですね。

鳥越:去年の糸井は盗塁王を取りましたが、成功率は76%くらいで得点への貢献度は低い。逆に41盗塁だった西川遥輝(北海道日本ハム)は成功率89%だったので、それだけ盗塁によって得点に貢献していたことになります。

カネシゲ:どちらが優勝したかというと、西川のいる日本ハムでしたもんね。なるほど。

鳥越:というように盗塁はいかに成功率を上げるか、盗塁死を少なくするかというところが大事なんです。そこで「wSB(ダブリュ・エス・ビー)」という指標が考えられました。式はこうです。

wSB={(盗塁×盗塁の得点価値)+(盗塁死×盗塁死の得点価値)}−{(リーグ総盗塁数×盗塁得点価値+リーグ総盗塁死数×盗塁死得点価値)/(リーグ総単打+リーグ総四球+リーグ総死球−リーグ総敬遠)×(単打+四球+死球−敬遠)}

カネシゲ:もうパッと見のとっつきにくさには慣れました(笑)。これはどういった指標ですか?

鳥越:まず最初の式を見てください。「盗塁に、盗塁の価値0.17を掛けたもの」+「盗塁死と、盗塁死の得点価値−0.4を掛けたもの」です。例えば「10×0.17−0.4×2」みたいな。そうすると、その人が盗塁によってどれだけ得点を挙げたかということになります。

カネシゲ:これはわかりやすいです。

鳥越:で、後ろの数式によってリーグ記録と“調整”をしています。

カネシゲ:リーグ全体の記録との調整ってやつだ。セイバーにはつきものですね。

鳥越:はい。平均的な走者が稼げる「盗塁による得点」を計算し、それと比べてどれだけプラスになったかマイナスになったかを算出するのが「wSB」です。

9月14日時点 【データ提供:データスタジアム】

カネシゲ:おお、西川の数値がハンパなく高い! ちょっと天然ボケっぽくみえるけど、盗塁に関しては超一流なんですね。この数値が「0」以上の選手は間違いなく盗塁で貢献しているということですね。

鳥越:そうです。平均的な走者は「0」なので、マイナスの選手もいっぱい出ます。例えば広島の菊池涼介のwSBはマイナスです。盗塁数が多くても失敗が多いとそうなってしまいます。

盗塁以外の走塁を測る「UBR」

鳥越:さて、wSBは盗塁に特化したデータでしたが、その選手が走者として、盗塁以外の走塁でどれぐらい得点を挙げたかを示すには「UBR(ユー・ビー・アール)」という指標を使います。これは「Ultimate Base Running」の略で、例えば「単打だったのに一塁から三塁に進塁した」とか、「タッチアップ」とか、「併殺崩し」とか。盗塁以外の総合的な走塁力を表します。

カネシゲ:おお、併殺崩しまで評価されるんだ。それはすごい。

鳥越:その基となるのが「アウトカウント塁状況別得点期待値」というものです。

【資料提供:鳥越規央】

鳥越:これは10年間のプロ野球のデータを元に算出しているのですが、この状況から何点取れるかという期待値です。例えば「無死ランナー無し」の場合、平均で何点取れるかというと0.455点なんですね。

カネシゲ:なるほど。プロ野球というのは、そのイニングが始まった瞬間だと0.455点取れると予想されるってわけですね。

鳥越:そうです。それが2死走者なしだと0.091点となります。無死満塁だと2.2点取れますよ。で、例えば無死一塁の場面でヒットを打つと、普通は無死一、二塁になりますよね。

カネシゲ:はい、なります。

鳥越:だけどランナーの状況判断がよくて、一、三塁にしたとします。そうすると得点期待値は1.417から1.721に上がりますよね?

カネシゲ:そうですね。グンと上がりますね。

鳥越:なので“その走者の足によって約0.3点平均点をプラスした”という評価になります。逆に憤死してしまったらマイナスになります。それらを全部プラスマイナスしていって、まとめて足の評価をしてあげようというのが「UBR」の考え方です。

9月14日時点 【データ提供:データスタジアム】

鳥越:これが今年のランキング1位は広島の菊池です。「足がある」というのは、こういうことなんですね。

カネシゲ:wSBではマイナスの菊池も、UBRではプラスかぁ。そして丸佳浩(広島)が2位。塁に出たキクマルコンビが足でかき回してる様子が目に浮かびます。

鳥越:さらに鈴木誠也、田中広輔、野間峻祥と広島の選手が続きますしね(笑)。あと西武や日本ハムも多くの選手がランクインしていますよ。

カネシゲ:機動力野球と言われるチームばかりだ。そして、ここにきてまた柳田が1位。もうなんか、さすがです。あっぱれです。

鳥越:それにしても、源田はすごいですよね。チャンスに強くて、機動力がハンパない。さらには、後々触れることになりますが、守備も素晴らしい。こんなパーフェクトルーキーがドラフト3位入団なんですよ。西武フロントのファインプレーですね。

カネシゲ:そりゃツイッター上で「#源田たまらん」のハッシュタグが大流行するわけだ。
◆鳥越規央氏プロフィール◆
江戸川大学客員教授。「セイバーメトリクス」の日本での第一人者である。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ、「AKBペナントレース」の得点換算方法の開発など、エンターテインメント業界でも活躍中。JAPAN MENSA会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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