U−17日本、初戦大勝も目指すはその先 準備と地力、タレントがかみ合った完勝劇

川端暁彦

戦術的な練度の高さを感じさせた交代

コンディショニングと戦術的な準備、チームとしての地力の部分、個々のタレント性という3つの要素がしっかりかみ合った完勝だった 【佐藤博之】

 後半も日本優位は揺るがない。ホンジュラスは前半にディフェンスの裏を使われ続けたため、アンカーのポジションを下げて5バック気味の布陣に変更してきたが、こうなると今度は日本が得意とする中盤中央を使ったボール回しにも余裕が出てくる。51分にはボランチの福岡がダイナミックに左サイドまで飛び出していくプレーから送ったクロスボールを、FW宮代大聖(川崎U−18)がヘディングでたたき込む形でゴールも生まれた。

 ここからは第2戦以降も見据えながらの用兵だった。森山監督は平川、中村、宮代と攻撃陣の主軸選手を下げつつ、アジアの1次予選、最終予選といった公式戦への出場経験を持たない選手たちを次々と投入。2戦目以降を見据えた慣らし運転もしながら、恐らくフランスとの第2戦を意識した戦術的なテストも敢行し、もちろんホンジュラスに反撃の糸口を与えないためにもなる“一石三鳥”を狙うような用兵だった。

 FWの宮代を下げて、馬場晴也(東京Vユース)を投入した78分の交代策も印象的だ。馬場がCBに入って、それまでCBの菅原由勢(名古屋U18)が左サイドバックにスライドし、左サイドバックの鈴木冬一(C大阪U−18)は左MFへ上がり、左MFへいた上月は宮代の抜けたFWへ。“ところてん”のように4つのポジションをズラす形となったが、混乱は皆無。ピッチの選手たちが「ああ、そういう交代ね」と冷静に判断する様はチームとしての戦術的な練度の高さを感じさせるもので、各国のスカウティングチームを幻惑するような流れでもあった。

 このあと、ポジションを前に上げた鈴木のゴールも決まった日本は6−1と大差を付けて、北中米カリブ海の難敵を沈めてみせた。「1人も体調を崩している選手はいない」(森山監督)というコンディショニングの準備と、スカウティング通りだったという戦術的な準備というこの試合に向けた部分と、2年半をかけて作ってきたチームとしての地力の部分、そして個々のタレント性という3つの要素がしっかりかみ合った、まさに完勝だった。

グループステージの突破はあくまでノルマ

チームの目標はグループステージの突破ではなく、あくまでノルマのような感覚だ 【佐藤博之】

 もっとも、サンフレッチェ広島時代、ユース年代の大会で8度の日本一を経験している指揮官は、ハーフタイムの時点からかぶとの緒を締めに入っていた。前半の試合内容にも苦言を呈すことを忘れず、特に不用意なカウンターを食らった場面を強調して戒めた。

「奪われてカウンターを受けてピンチになるシーンも多くありました。やはり、上にいくためには、ああいった相手のカウンターをみすみす許すような場面を減らさないといけない。当然、全部が全部は無理だと思いますが、1つでも2つでも減らしていくことがこれから先は重要になってくると思います」

 チームの目標はグループステージの突破ではなく、あくまでノルマのような感覚だ。「上にいくために」ということを大勝の後だからこそ、しっかり強調して締めにかかったのは先を見据えているからこそである。「決勝までの7試合を戦う」という言葉は口だけのスローガンではなく、ひとつのビジョンだ。それが簡単でないことを分かっているからこそ、自然と指揮官の口も酸っぱくなる。

 次は欧州の伝統国フランスが相手となる。攻撃陣にFWアミネ・グイリ(リヨン)、ヤシン・アドリ(パリ・サンジェルマン)といったスペシャルなタレントを複数人擁する紛れもない強敵だ。当然、「今日みたいにはいかないと思う」(中村)のは重々承知ながら、このレベルの相手と戦えないようでは目標達成も見えてこない。次の試合は「首位突破を決める場になる」(久保)と同時に、日本の若武者たちがその胸に抱く大志の行く末を占う場ともなるだろう。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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