久保建英は“他人を生かして自分を生かす” U−17W杯で漂う、さらなる飛躍の予感

川端暁彦

U−20とは違う「優勝」という言葉の意味

U−17W杯は「間違いなく良いところまでいける」と語る久保。「優勝」は可能性のある「目標」だ 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 もちろん、久保が「戻りたい」と口にしたのは単に居心地の良い場所だからではあるまい。

「このチーム(U-17日本代表)は、まずあまり負けていない。『優勝』というのをより具体的に想像できた中で、みんなが口にしていると思います。その分、うまくいかなかったときの落胆みたいなものもあるとは思いますが、間違いなく良いところまでいけると思う。ここから細かいところを突き詰めて優勝できればいいなと思います」(久保)

 ナチュラルに出てくる「優勝」という言葉は、U−20のときにも聞けたものだが、本人も認めるように、漠然としたイメージだったU−20での優勝と、具体的な対戦結果を積み重ねた上で口にするU−17での優勝は明らかに別モノだ。前者が夢物語ならば、後者は可能性のある「目標」である。久保自身、このチームの強さと可能性に確かな手応えがあるのだろう。

 チームは久保がいない間に明らかにワンランク上への進歩を見せている。ボール回しはグッとスムーズになったし、時間帯や戦況に応じて戦い方を使い分ける幅も出てきた。久保がいれば、彼の能力を頼ってしまう部分が出てきたかもしれないが、不在だったことがポジティブに作用した面もある。久保が抜けた期間があったことは、他の選手の自覚と成長を促す意味でかえって良かったとも言える。

チームのレベルが上がり、久保がさらに生きる

周りのレベルアップにより、「他人を生かして自分を生かす」という久保(9番)の特長がさらに生きる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 久保の特長は「他人を生かして自分を生かす」能力の高さにある。昨年のアジア最終予選では、少し「自分」の部分が強くなり過ぎてドリブルしか選択肢を持てない時間帯も増えてしまったが、今のチームならば少し違う顔が見られるはずだ。周りのレベルとチームとしてのクオリティーが上がってきた中で迎える世界大会は、その個性がさらに生きてくる予感はある。

 そして、彼のもう1つの魅力が「決定力」にあることは言うまでもないし、本人の得点へのこだわりも並々ならぬものがある。U−20での自分に納得できていないのも、ゴールがなかったことが大きかった。U−20のリベンジをU−17でなし遂げるとしたら、やはりゴールという結果を積み上げてこそだろう。タイミング良くボールを受けて離して周りを生かしつつ、ゴール前に現われて最後の決定的な仕事をこなす――。そんな“久保らしさ”を存分に表現する大会になっていくならば、その胸に抱く「目標」も現実味を帯びてくるに違いない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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