「韓国のイチロー」長男が安打量産 秋には親子で思い出深い東京ドームへ

室井昌也

李鍾範の息子が韓国球界で大活躍

かつて中日で活躍した李鍾範の息子、李政厚が韓国球界で大活躍。高卒ルーキーながら打率3割2分8厘で韓国の新人最多安打を塗り替えた 【写真提供:ネクセンヒーローズ】

 今から19年前の1998年。「韓国のイチロー」という触れ込みで中日ドラゴンズ入りした選手がいた。

 韓国リーグで首位打者に輝いたヒットマンで、盗塁王を3度獲得した俊足の持ち主であることからそう評されたが、やって来たのは右打ちの内野手。多くの人が描く「イチロー」のイメージとは異なるタイプのプレーヤーだった。

 名前は李鍾範(イ・ジョンボム/当時の登録名はリー・ジョンボム)。韓国ではスピード感あふれる姿から「風の子」と呼ばれ、日本でもファイトを前面に出したプレーでファンに愛された選手だ。2001年途中に中日を退団すると韓国に帰国し、11年に引退するまで球界のスーパースターとして君臨した。

 その李鍾範が中日1年目の夏に授かった長男が、今年高校を卒業し韓国・KBOリーグにプロ入りした。ルーキーながらヒットを量産し、韓国の新人最多安打、最多得点記録を塗り替えるなど大ブレイクしている。

コンタクト能力の高いスイング

高いミート力を持ち味に、主に1番打者として全試合に出場している李政厚 【写真提供:ネクセンヒーローズ】

 身長185センチ、体重78キロ。すらりと伸びた長い手足が目を引く19歳の李政厚(イ・ジョンフ/ネクセンヒーローズ)は、父とは異なり左打ちの外野手だ。開幕から主に1番打者として全試合に出場。141試合で177安打(リーグ3位)を放ち、打率は3割2分8厘(同13位)をマーク。またリーグ3位の110得点を稼いでいる。

「シーズン前は出場枠が広がる9月(※)に1軍に上がることを目標にしていたので、1年目からこんなに成績を残せるとは思っていませんでした。コーチ陣のバックアップのおかげです」と李政厚は謙虚に答える。

 プロ1年目からコンスタントにヒットを放っている李政厚。その理由についてネクセンの姜炳植(カン・ビョンシク)打撃コーチはこう話す。

「常にボールをしっかり見ていることが一番の理由です。打つ前の準備姿勢から体の軸が安定していてスイングしても視線がぶれないので、ボールから目が離れません。それがコンタクト能力(ミート力)の高さとなって結果につながっています」

 李政厚の巧みなバットさばきはこれまでチームを窮地から救ってきた。9月16日のNCダイノス戦では、ネクセンが12対14で2点を追う、9回表2死満塁の場面で李政厚に打順が回って来た。李政厚はフルカウントで投手がウイニングショットに投じた真ん中低めに落ちるフォークボールを、手首を返しバットのヘッドを下ろして対応。転がった打球は一二塁間を抜くライト前ヒットとなり、2者が生還した。ネクセンは李政厚の一打によって土壇場で同点に持ち込むことが出来た。

 李政厚の高い打撃センスと能力は他球団の首脳陣も認めている。ハンファの中島輝士打撃コーチ(元日本ハムほか)は「韓国のバッターは股関節が硬い選手が多いけど、彼(李政厚)は股関節が柔らかくて使い方がうまい」と評価した。

※韓国の出場選手登録は27人、25人まで出場可能だが、9月1日からは枠が広がり、32人登録、30人まで出場可能となる

東京Dで思い出すのは李承ヨプの一打

父の李鍾範は1998年から2001年まで中日に在籍。闘志あふれるプレーで、99年のリーグ優勝にも貢献した。また、韓国代表として第1回WBCにも出場。チームをベスト4に導いた 【写真は共同】

 スーパースターの子にしてスーパールーキーとなった李政厚。その彼は11月に東京ドームで行われる「アジア プロ野球チャンピオンシップ」(24歳以下または入団3年以内の選手が出場)で韓国代表入りする可能性が高くなっている。

 李政厚は生まれてから3歳まで名古屋で過ごしたが、当時の記憶はほとんどない。しかし7歳の時、韓国から旅行で訪れた日本のことは鮮明に覚えていた。その場所は東京ドーム。06年、第1回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で韓国代表のキャプテンとしてチームを引っ張る、父を応援するためだった。

「あの場所で自分がプレーすることになるとは……とても不思議です」

 李政厚は精悍(せいかん)な目つきでかみしめるようにそう言った。第1回WBCで韓国代表は東京ラウンドを1位で通過。アメリカでの2次ラウンドでも李鍾範の活躍などで快進撃を見せベスト4入りしている。

 李政厚に東京ドームで観戦したWBCでの印象的なシーンについて聞くと、少し考えてから父の名ではなく、父と並ぶ国民的英雄の一打を挙げた。

「李承ヨプ(イ・スンヨプ)先輩が日本戦で放った逆転ホームランを思い出します」

 韓国は今大会から、韓国初の代表専任監督となった宣銅烈(ソン・ドンヨル)が指揮を執る。その宣監督を外野守備・走塁コーチとして支えるのが、李政厚の父、李鍾範だ。

 かつて「風の子」と呼ばれファンを魅了した男とその息子。2人は思い出深い東京ドームで同じユニホームをまとい、ともに韓国国旗を背負ってこの大会に挑んでくる。
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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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