アイデンティティーを取り戻したスペイン 世代交代を進め、プレー哲学には忠実に
結果的に大当たりだったロペテギ監督の抜てき
9月2日のW杯予選、スペインはイタリアに3−0で完勝し、本大会出場に近づいた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】
2014年のワールドカップ(W杯)ブラジル大会ではグループリーグ敗退に終わっただけでなく、黄金期の終焉(しゅうえん)を印象付けた。昨年のユーロ(欧州選手権)2016でも、未来に影を落としていた状況は変わらなかった。
実際、チームは自信を失いつつあるように見えた。黄金世代がキャリアのピークを過ぎ、台頭を促された若い世代に覇権の維持が託されたのだから、無理もない。
ここ数年のうちに、バルセロナとスペインの黄金期を支えた選手の多くが代表を後にした。また06年W杯の後に故ルイス・アラゴネスが打ち出したプレーモデルを受け継ぎ、発展させてきたビセンテ・デルボスケも、ユーロ2016の後に“ラ・ロハ”(スペイン代表の愛称)を去った。
しかし、そこでスペインフットボール協会(RFEF)は賢明な決断を下した。デルボスケの意見を重んじ、ユース世代の代表を率いて多くの成功を手にしてきたフレン・ロペテギを後継者に選んだことは、結果的に大当たりだった。彼の指揮下、ラ・ロハはここまで文句なしの結果を出してきただけでなく、ボールポゼッションを重視したプレースタイルを維持しながら、優れたタレントを持った若い世代をチームの中核に組み入れてきた。
ラ・リーガ所属以外の代表選手が11人
ロペテギ(右)のチームはバルセロナとレアル・マドリー、2強のパワーバランスがより拮抗している 【写真:ロイター/アフロ】
現在のスペインに見られる大きな変化の1つは、チームの主軸を担うバルセロナとレアル・マドリーの選手が同数になったことだ。それはスペインフットボール界が新たな時代を迎えたことを表す事象と言えるかもしれない。
今やスペイン代表は、1つのクラブチームをベースとしたチームではなくなった。アラゴネスとデルボスケが率いたチームは、黄金期を謳歌(おうか)していたバルセロナのプレーモデルと、それを実践する選手たちがチームの主軸を担っていた。だが現在のスペインフットボール界では、2強のパワーバランスがより拮抗(きっこう)している。16−17シーズンはレアル・マドリーに軍配が上がったが、他にライバルがいない現状もあり、すぐにバルセロナが覇権を奪回する可能性もある。
さらにはアトレティコ・マドリーの数選手(来年1月にはジエゴ・コスタもアトレティコに復帰する可能性がある)、そしてこれは今に始まったことではないが、プレミアリーグをはじめ国外のトップリーグでプレーする選手たちも、ラ・ロハの中核を担っている。
9月のW杯予選のために招集されたメンバー26名のうち、プレミアリーグから6人、米国のメジャーリーグサッカーから1人、イタリアのセリエAから2人、ドイツのブンデスリーガから2人。スペインのラ・リーガに所属していない11選手が前回の招集リストを占めたという事実は、2強が利益を独占し続ける弊害として、他クラブの弱体化が進んでいるスペインフットボール界の現状を反映した数字と読み取ることもできる(国内の15人のうち、バルセロナとレアル・マドリーの選手が10人)。