アイデンティティーを取り戻したスペイン 世代交代を進め、プレー哲学には忠実に

南アフリカ大会の再現を目指してロシアの地へ

昨季から素晴らしいパフォーマンスを維持しているイスコ(22)が代表でも中核を担いつつある 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 フットボールの内容について言えば、ラ・ロハは過去3年にわたって失われてきた新鮮さ、そして中盤から前線にかけての創造性を取り戻した。

 スペインは今も最終ラインから丁寧にパスをつなぎ、ボールを支配することで試合の主導権を握っている。ただその優越性をスコアに反映するために必要な崩しのアイデアと得点力を長らく欠いてきた。

 ダビ・デヘアはかつてイケル・カシージャスが与えていた絶対的な安心感を周囲に与えるようになった。ダニエル・カルバハルは後方からの組み立てのみならず、右サイドを深く力強くえぐるプレーを右サイドに加えている。

 中盤には守備時は相手の攻撃の芽を摘み、攻撃時はシンプルかつ確実にボールを散らすセルヒオ・ブスケッツが健在だ。さらに昨季から素晴らしいパフォーマンスを維持しているイスコがベテランとなったアンドレス・イニエスタの負担を減らし、コケやダビド・シルバらとともに流動性の高い4−1−4−1のシステムを構成している。

 前線の競争は熾(し)烈だ。新天地チェルシーで早くもゴールを量産しているアルバロ・モラタに加え、レアル・マドリーで際立った活躍を見せているマルコ・アセンシオも台頭してきた。1月以降はジエゴ・コスタも調子を上げてくるはずだ。

 攻撃陣にはチアゴ・アルカンタラ、サウール・ニゲス、ペドロ・ロドリゲスらも控えており、チームディフェンスも安定している。今やスペインはドイツやブラジルと並び、再び来年のW杯における優勝候補の一角としてリスペクトされるチームになった。

 選手の顔ぶれは変わっても、美しさとボールを重んじるプレー哲学に忠実であり続けながら、ラ・ロハは優勝した10年W杯・南アフリカ大会の再現を目指して、ロシアの地に向かうことになる。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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