広島に「先発10勝カルテット」誕生か 新たな投手王国に継承される黒田イズム

ベースボール・タイムズ

3年目・薮田が一躍エース格へ

交流戦から先発の一員となった薮田(写真左)。今やエース格と呼ぶにふさわしい活躍ぶりを見せている 【写真は共同】

 そして開幕当初の中継ぎ要員から大ブレークを果たしたのが、3年目の薮田だった。薮田は今季、登板2試合目から11試合連続無失点を記録するなど、勝ち負けなどの状況を問わないリリーフで実績を積み重ねた。ロングリリーフでも結果を残し、交流戦からローテーション入りを果たすと、そこから登板6試合全てで勝ち投手に輝き、先発陣の中心的存在となった。最多勝を争う菅野との投げ合いとなった8月12日の巨人戦では、1対0と最少スコアでプロ初完投、初完封を記録。一躍エース格にジャンプアップした。

 リリーフ兼任の先発投手として、忘れてはならないのが九里亜蓮だ。オープン戦で結果を残し、開幕ローテ入りを果たした九里は、開幕2連勝と好調なスタートを切った。しかし、その後は好不調の波が激しく、交流戦最初の登板となった千葉ロッテ戦に5回4失点で降板したのを最後に、薮田と入れ替わる形でリリーフに配置転換となった。配置転換後は、ビハインドでのロングリリーフでチームの逆転劇につなげる好投が目立ち、先発陣に疲労の色が濃くなった7月後半には再び先発を任されるなど、投手陣に不可欠な存在となった。

 さらにもう一人、先発陣が苦しい時期に台頭したのが、プロ4年目の中村祐太だ。高卒ながら1年目から高評価を受けた中村祐だが、故障もあり伸び悩んだ。初の一軍登板となった今季、プロ初登板初勝利をマークすると、連戦が続く時期には6人目の先発として存在感を発揮し、ここまで4勝を挙げている。高い野球センスと打撃力は前田健太を彷彿(ほうふつ)とさせるものがあり、将来のエース候補としての足がかりをつくるシーズンになった。

野村、福井にも受け継がれる黒田イズム

昨季は最多勝に輝いた野村は陰に隠れがちだが、チームトップのQS15回を記録するなど、さすがの投球を披露 【写真は共同】

 10勝カルテットが実現した13年がリーグ3位に終わったのに対して、今季ここまでの独走状態を築いたのは、4人以外にも勝てる投手がいたからだ。全体的な底上げが著しい現在の投手陣には、昨季限りで引退した“レジェンド”の影響が少なからずある。

 苦しい台所事情の中、フル回転を見せた薮田と九里はツーシーム系の武器にしているが、このボールを軸に右打者の懐を攻める投球は、黒田の影響に他ならない。大瀬良も昨春のキャンプで投球フォームの直接指導を受け、引退後も良き相談相手として、影響を受けている。若手だけでなく野村や福井など、「黒田イズム」は投手陣全体に対して、確実に継承されている。

 その他にも、プロ初登板で9回1死までノーヒットノーランの快投を見せたドラフト1位ルーキーの加藤拓也や、開幕ローテ入りし、巨人戦で初勝利をマークしたルーキー左腕の床田寛樹、高卒2年目でプロ初先発も経験したサウスポー・高橋樹也など、スポット的だが次代を担うエース候補の活躍も見られた。

 ファームでも、花咲徳栄高で昨夏の甲子園を沸かせた期待の左腕・高橋昂也や、ナイジェリア人の父を持つ大型右腕・アドゥワ誠、150キロ超のストレートが評判の長井良太など、二軍で実戦デビューを果たしたルーキーの評判も聞こえてくる。

 タナキクマル世代を中心に黄金期を築きつつある野手陣に続き、広島に新たな投手王国が確立される日も、そう遠くないのかもしれない。

(大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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