吉田の相棒に躍り出た昌子源 最終予選終盤からみるロシア行きの可能性

元川悦子

経験がモノをいうCB

「僕のポジションは経験が非常に重要な要素」と昌子。敗れたサウジアラビア戦から得たものは少なくない 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 主力入りして最初のゲームだったシリア戦では、失点場面で相手のマークを外すという致命的なミスを犯してしまう。本人も「悪い例を経験した分、それをプラスに持っていける」と前を向き、イラク戦では落ち着きを取り戻した。

「源は6月の1試合目より2試合目の方が良かった。新しい選手が入ってくることでチームとしての可能性はどんどん広がると思う」と川島も太鼓判を押したが、若い選手は試合をこなすごとに劇的に進化していくことがある。特にCBは実戦をこなして初めて体得できる部分が多い。そこは昌子自身も強調している点だ。

「僕のポジションは経験が非常に重要な要素。普通のサッカー選手は25歳がピークと言われるけれど、CBは30歳くらいで円熟味を増すのかなと。麻也君やモリ(森重)君がそうだったように、自分も時間をかけて経験を積み上げたい」と彼は少し前に話したことがあったが、24歳で最終予選の重要局面に立てたことはかけがえのない大きな財産だった。

 だからこそ、昌子は今回の終盤2連戦で特筆すべきミスを犯すことなく、日本のロシア行きに貢献できた。W杯切符のかかる大一番、異種独特な空気が流れる超満員の中東でのアウェー戦を経て、より冷静沈着に戦況を見ながら戦うことの重要性も痛感したことだろう。

「サウジの19番(F・アルムワラド)はかなりのスピードがあるというのは聞いていました。非常に捕まえるのが難しかったですけれど、失点シーン以外は守れていた。それを続けていかないと、ロシアでも一瞬のスキでやられる。もう終わってしまった試合は巻き戻せないので、次の10月、11月の時はそういうことが一瞬もないように。この課題を次につなげないと意味がない。僕と麻也君もそうですけれど、普段からは合わせられないので、しっかりコミュニケーションを取って、もっと関係を深めていければと思います」と本人も神妙な面持ちで言う。

泥臭い生きざまがもたらしたもの

昌子は鹿島の守備に欠かせない存在となった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 海外組の吉田や長友佑都とは異なり、昌子は今回のサウジFW陣のような相手と対峙(たいじ)する機会が少ない。そこは気がかりな点ではあるが、「オーストラリアとやって、柏(レイソル)のクリスティアーノ選手とかブラジル人は似たようなフィジカルを持っているから、とにかく自信を持ってやればいい」とあくまでポジティブだ。

 その前向きさは中学時代に通っていたガンバ大阪ジュニアユースを3年の頭に辞め、一時はサッカーから離れ、不安定な思春期を過ごした後、米子北高でDFとしてはい上がり、常勝軍団・鹿島アントラーズの守備の要に君臨してきた泥臭い生きざまゆえだろう。

「CBは技術と言うより、メンタルが強くないとできないと僕は思っています。自分もこの1〜2年でそのメンタルがすごく鍛えられた。普通の人じゃ味わえない経験をさせてもらえたから、最終予選の重要な舞台に立たせてもらえたと思います。これからもはい上がって、極力、右肩上がりで成長を続けていければいいけれど、けがとかいろいろなことがあるかもしれない。そういう苦しい時に備えるメンタルももっともっと鍛えていきたいですね」と、近未来の日本の最終ラインを担うべき男はこう言った。

 昌子が尊敬するサッカー人であり、兵庫県サッカー協会技術委員長の要職に就いている父・力さん(姫路獨協大学監督)も「源はCBとしては背が高くないので、判断力を研ぎ澄ませていくしかない。最近の試合では、味方がピンチに陥っていると思えば自分のマークを放っても1〜2歩速くカバーリングにいくシーンをしばしば見ますが、その経験値を高め、全体的な平均値を上げることが、彼の生きる道だと思います。あの身長ですから、そういう武器が消えたら、代表監督は源を選ばない。自分の特徴をしっかりと認識した上で、先を見て進んでいってほしいと思います」といち選手として息子を冷静に評していた。

 そんな父の提言を本人もよく理解し、自分自身の中に刷り込んでいくはず。ロシアW杯までには森重もけがから復帰する見込みで、若い植田直通、三浦弦太を含めてポジション争いはより熾烈(しれつ)になる。そのサバイバルを勝ち抜いて、吉田の相棒としてだけでなく、日本の壁として世界に立ちはだかるべく、24歳のDFには貪欲に前進を続けてほしい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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