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熱意がつながり10回目
野球への思いが結集する離島甲子園
開会式で入場行進をする能古島アパッチ。黒いウェアの3人は、地元の石垣中から借りた“助っ人”
開会式で入場行進をする能古島アパッチ。黒いウェアの3人は、地元の石垣中から借りた“助っ人”【平野貴也】

 仲間がいて、相手がいる。多くのプレーヤーが当然と思っている条件が成立しない。教えてくれる人を探すのも一苦労だ。部活動が存在しない環境で「野球をやりたい」と言う少年たちがいる。


 九州の博多湾に、コスモスの名所として知られる能古島(のこのしま)という小さな島がある。島で唯一の能古中学校は、かつては300人近い生徒が通っていたが、現在は、全校生徒で50人程度。約40年前に野球部が廃部になり、中学生が地元で野球をする環境がなくなった。9年前に発足したクラブチームの能古島アパッチ(福岡)は、いまだに9人そろうことがない。清水明監督は「本当は9人そろえて、福岡市の大会やクラブチームの大会に出場できるようにしたいです。でも、今のところは、これが1年に1回だけ参加できる大会。ここから次の大会に向けて頑張ろうというのが、子どもたちのモチベーションです」と話した。公式戦を経験することのできないチームの唯一の目標は「離島甲子園」だ。


 全国23の自治体から過去最多24チームが参加し、8月21日から24日に沖縄県の石垣島で開催された「全国離島交流中学生野球大会」のことだ。「マサカリ投法」で知られる元ロッテのエース・村田兆治さんが野球教室などで離島を訪れ、圧倒的に試合数が少ない事情を知ったことから、大会は生まれた。離島の振興を行っている国土交通省のバックアップを得て2008年にスタート。大会参加にかかる経費は、自治体が一部負担する。

「テーマは人材育成」と語る村田氏

大会の提唱者で名誉会長を務める村田兆治さん
大会の提唱者で名誉会長を務める村田兆治さん【平野貴也】

 提唱者として大会名誉会長を務める村田さんは「10年でだいぶ理想の形に近付いた。野球を通した人材育成がテーマ。本土の選手に負けずに頑張ってほしい。離島同士で試合をすると、人数が少ないことを言い訳にせずに頑張れる。屋久島や南種子のチームは、随分と良くなった。目標を持って良い習慣をつくっていくことが大事。知らない離島の者同士でしっかり挨拶をして一緒に頑張ったことなどは野球以外にも生かしてほしい。離島は経済的にも大変。困難に立ち向かうときにきっと生かせる」と第10回を迎えた感触を語った。


 佐渡島(新潟)や南大東島(沖縄)、壱岐島(長崎)出身の大会OBが甲子園大会に出場するなど、競技の促進に役立っている部分もあるが、参加しているほとんどの選手の喜びは「試合ができる」の1点に尽きる。少子高齢化と過疎化の影響を強く受ける離島では、チームを作ることは容易でない。試合をするにも島を出れば費用がかかる。島にチームが1つあっても、同学年と試合をする機会がない。島の子どもたちは、試合に飢えている。能古島アパッチは、人数不足のため、開催地にある石垣中学校から2年生を3人借りて臨んだ。


 試合の結果は、惨憺(さんたん)たるものだった。1回戦で南種子中学校(鹿児島)に0−16と大敗。しかし、大敗を喫したはずのチームは、落ち込むどころか興奮していた。ライトでフライを捕球し、ファーストへの送球で併殺に仕留めた2年生の帖佐桂汰君は「前回は少ししかプレーできなかった。初めて、試合の楽しさが分かった。自分が守って、打って(試合の結果に関係するのが)楽しいし、新鮮」と目を輝かせていた。先発投手を務めた2年生の福島弘朗君も「相手の投手が変化球を投げてくるし、球速も全然違う。慣れていないから打てないけど、試合は楽しいと思いました」と話した。

弱くても「子どもの気持ちを拾い上げたい」

 近年は、高校野球でも部員不足による合同チームの結成が珍しくなくなっており、仲間が減っていく状況での困難が報じられることは珍しくなくなった。しかし、一度途切れてしまえば、引き継ぐ目標も習慣もないゼロの状況からチームを始めることは、もっと難しい。


 能古島アパッチは、参加チームの中で最弱だった。仲間が少ない、相手がいない、弱いという状況では、向上意識の高い選手が入って来ることは考えにくい。初心者同然の子を集めたところで、厳しい練習を課して1人、2人と減れば、チームはすぐに無くなってしまう。試合を積み重ねられないため、遊びの延長から競技に発展し、勝負や競争の面白さを自然に学ぶことも難しい。それでも、清水監督は「こんなに下手ですけど、プレーしてはいけないということはないと思うんです。本当は野球をやりたい、やってみたいという子どもの気持ちを掘り起こすというか、拾い上げたい」と、チームのない島の子どもたちにメッセージを発した。

平野貴也
平野貴也
1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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