男子ジャンプ、昨季不振の原因はスーツ!? 平昌五輪へ、横川HCが掲げる課題とは
“赤身”か“トロ”かが成績を左右する
ソチ五輪の歓喜から3年。45歳になった葛西は今でも世界トップクラスの技術を誇る 【Getty Images】
「昨季序盤の成績が出ないときに、原因を探るため動作比較をしたんです。すると、踏み切りから落下し始めるところまではほぼ一緒ですが、そこから引き離されていることが分かりました。その原因はほぼ、ジャンプスーツのカッティングの仕方か生地の影響だと思います。僕らは日本から持っていったスーツを現地で調整する形だから、ヨーロッパ勢が新しいものを使ってきても、直ぐに同じようなものを作れるというわけにはいきません。その対応に時間がかかり過ぎました」
ジャンプスーツの大きさにはルールが定められており、紆余曲折(うよきょくせつ)の末に現在は腰ベルトの周りは+2センチ、それ以外は+3センチとされている。その規定内で各国がせめぎ合っているのだが、それでも違いが出る。道具に関してはめったに文句を付けない伊東もスーツの差はあると口にしていた。横川HCは「大貴がそれを言うとはよっぽどですね」と苦笑する。
「昨季は生地の問題も大きかったと思います。作っているメーカーは世界で2社のみなんですが、生地はマグロと一緒で、赤身の部分もあればトロの部分もある。その一番良いところで作らないとダメ。それ(良いところ)がドイツとオーストリア、ポーランドにいって、外したのはノルウェーと日本、スロベニアになったという感じです。
ただスーツの作り自体は日本チームのものが悪いかというと、そうではないと思います。最終戦で葛西が表彰台に上がった時のスーツはシーズンで一番素材の良い物を使えたスーツでした。ちゃんと表彰台へ上がるテクニックを持っているということです」
団体戦では4番手の成長が重要に
昨季の悔しい思いを平昌シーズンとなる今季にぶつける 【スポーツナビ】
W杯に出場してまだ数シーズンの小林潤志郎(雪印メグミルク)と弟の陵侑(土屋ホーム)、作山憲斗(北野建設)ら若手が来季はどこまで力を伸ばせるか。さらには14年ソチ五輪に出場した清水礼留飛や10年バンクーバー五輪出場の栃本翔平(ともに雪印メグミルク)ら、低迷している中堅がどこまで復活してくるかも鍵になる。横川HCはこう語る。
「資金の問題とスタッフ不足で、セカンドグループの選手たちがW杯の下のコンチネンタルカップに出場できていないのがネックですね。日本のジャンプ台は全部向かい風だし、そこで飛んでいると選手も勘違いしてしまいます。ヨーロッパの環境は日本とはまったく違い、向かい風だと競技を止めて追い風になるのを待つくらいです。選手たちもそれを頭では知っていますが、向かい風で飛んでいるのに慣れてしまうと感覚がそっちの方に傾いてしまう。その辺りをしっかり意識してくれるかどうかです」
W杯組との入れ替えをもっと活発にする必要もある。そのためにセクレタリー(事務的な業務を一手に引き受けるスタッフ)を新たに設けて国内の情報を伝えたり、映像を送って国内残留の選手の状況を見る試み予定している。
「逆に(昨季は)悪くて良かったかなとも思っています。すんなり上手くいってしまえば油断も生まれるが、みんなが目の色を変えて動き始めたのでそれはいいことかなと。下の3人(小林潤志郎・陵侑、作山)が目立つ活躍をしてくれなかったから、それで国内組にも火がついてくると思います。
前回のソチ五輪のときもわざと争わせるようなことをやりました。争いが激しくなればみんなのレベルは上がってくるものだから、あとは自主性を持って何を目標にするのか、何を頑張ればいいのかと考えながら上がってくればいいと思います。チームとしても昨季は悔しい思いをしたから、これからじゃないですか」
メダル争いの舞台となる平昌五輪のジャンプ台は白馬とプロフィールが似ていて、日本人選手には得意な分野だという。苦しんだ昨季だったが逆に課題も多く見つかり、日本チームはそれをバネにできる。そう語る横川HCの表情は明るかった。