オーストラリア戦で勝ち点3を求める理由 苦手な相手だからこそ、歴史的勝利を!

宇都宮徹壱

サウジアラビアが敗れて優位に立つ日本

日本はオーストラリアに勝って、6大会連続6回目のW杯出場を決めることができるか 【写真は共同】

 2015年3月12日に1次予選がスタートした、2018FIFAワールドカップ(W杯)のアジア予選。それから2年と5カ月あまりの歳月を経て、ようやく感動のフィナーレが見えてきた。最終予選(3次予選)グループBの日本は今夜(8月31日)、ホームでオーストラリアと、そして9月5日(現地時間、以下同)にアウェーでサウジアラビアと対戦する。日本が6大会連続6回目のW杯出場を果たすための条件について、あらためて考えてみたい。

 日豪戦の2日前の29日、グループBでUAEとサウジアラビアの試合が、われわれにとっても思い出深いアル・アインで行われた。ここで勝ち点3を加えて暫定首位に立ち、ライバルの日本とオーストラリアにプレッシャーをかけたいサウジアラビアは、前半20分に得たPKを成功させて先制。しかしプレッシャーを感じていたのは、実は彼ら自身だったようだ。先制からわずか1分後に同点に追いつかれ、さらに後半15分には豪快なミドルを決められてUAEに逆転を許してしまう。

 試合はそのまま2−1でUAEが勝利。サウジの勝ち点が伸びなかったことで、日本は首位をキープしたままオーストラリア戦に臨むことになった。余談ながら、UAEの逆転ゴールを決めたのは、キャプテンのアハメド・ハリル。明日の中継やスポーツニュースでは「ハリルがハリル(ホジッチ)を救った」なんてダジャレを耳にすることになるかもしれない。

 あらためて順位表を確認しよう(カッコ内は勝ち点/得失点差)。現時点では、1位日本(17/+9)、2位サウジアラビア(16/+6)、3位オーストラリア(16/+6)、4位UAE(13/−2)。予選突破の可能性を残しているのはここまでである。サウジに勝利したUAEは、最後のイラクとのアウェー戦に大量得点で勝利し、なおかつ勝ち点16の上位2チームのどちらかが全敗すれば、グループ3位でフィニッシュして、11月の大陸間プレーオフ出場権を懸けてA組3位とホーム&アウェー方式で対戦する4次予選に進む可能性がある。

 一方、首位の日本はUAEのおかげで、かなり楽な立場になった。それまでは「勝ち点3」が必要だったのが、「勝ち点1」でも予選突破できる可能性が出てきたからだ。ただしこの条件を満たすのは、オーストラリアに敗れてサウジに引き分けるパターンのみ(この場合、日本は2位通過)。逆にオーストラリアに引き分けてサウジに敗れると、日本は3位に沈む可能性がある。オーストラリアに勝てば文句なしの首位通過だ。

勝つ気満々のオーストラリアだが……

「天敵」ケーヒル(左)の存在など、オーストラリアへの苦手意識はあるが…… 【写真は共同】

 UAEの勝利によって、日本が直接的に蹴落とすべき対象はオーストラリアからサウジアラビアに切り替わった。極論すれば、31日の試合で引き分け以下に終わっても、日本は絶望する必要はない。逆に、ここで勝ち点3を積み重ねれば、日本は開催国のロシア、ブラジル、イランに続く4着で本大会出場を決めることができる。もっとも、状況はオーストラリアもまったく同じ。敵地で日本を相手に勝ち点3を奪うことができれば、彼らがロシアへのチケットを先に手にすることになるのだ。

 オーストラリア代表のアンジェ・ポステコグルー監督も、前日会見で勝つ気満々のコメントを残している。いわく「ここ日本で、日本に勝つことができれば、われわれのチームが十分に形になっているという良い指標になると思う」。いわく「W杯予選では、ホームでもアウェーでも、どういった条件であっても常に勝利を目指してきた。それこそが今のチームのDNAとなっている」。オーストラリアは日本戦のあと、ホームでグループ最下位のタイを迎える。勝ち点3を十分に期待できる相手だが、あえてアウェーの日本戦で決めてしまいたい、という強い意志をもって挑んでくると考えたほうがいいだろう。

 オーストラリアの自信の根底にあるのは、今年6月にロシアで開催されたコンフェデ杯での経験である。アジア王者として挑んだこの大会では、初戦でドイツに2−3という接戦を演じると、カメルーンとチリにいずれも1−1で引き分けた。グループリーグ敗退に終わったものの、この大会のファイナリスト、ドイツとチリを相手に一歩も引かぬ戦いを見せたことは大いに評価されてしかるべきだろう。また、今年に入ってから導入した3バックのシステムで、十分に戦えることが証明できたのも好材料だ。

 対する日本は、オーストラリア戦を前にネガティブな報道が先行していたのが気になるところ。W杯予選では一度も勝てていないというデータ、「天敵」ティム・ケーヒルの存在、そしてプレーオフに回ることへの恐怖心、などなど。多少は追い風が吹いていても、依然としてオーストラリアへの苦手意識は払しょくできずにいる。だが、このオーストラリアとの大一番に勝利すれば、W杯の道が開かれるのみならず、11年前の「カイザースラウテルンの悪夢」(06年W杯ドイツ大会・グループリーグ第1戦でオーストラリアに1−3で敗北)を断ち切ることもできよう。ならば、歴史的な勝利を目指して応援するしかない。最後に、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のこの言葉で、本稿を締めくくる。

「われわれにとって、成功すれば偉業になる。困難が多かった分、成果も大きくなる。そのためにはサポーターのみなさんの応援も必要だ。その応援に答えるべく、選手たちは頑張ってくれると思う。この状況下で勝つために、われわれは全力を尽くす」
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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