台湾からバファローズへ 「夢が叶った」蔡通訳 陳投手を全力サポート
◆高知大学に留学
小学生の頃から野球が大好き。留学期間中、同大野球部に顔を出し練習の手伝いをするようになった。
ある日、仲良くなった先輩に声をかけられた。「プロ野球のキャンプで一緒にアルバイトをしてみない?」。連れて行かれたのは、バファローズの高知秋季キャンプだった。仕事はバッティングマシンにボールを入れる作業やボール拾いなど、練習のサポート。プロ野球選手を初めて間近で見るひと時に心を躍らせた。
「9年前の当時、西野真弘選手に声をかけてもらって、少しだけ話をしました。たまたま西野選手のベースボールカードを持っていて『すごい!本人に会えた』と思って感激したのを覚えています」
熱気あふれるよさこい祭りの見物や、独立リーグでの通訳補助、大学での毎日。日本での生活は数多くの思い出で彩られた。「一度もホームシックにならなかったんです。かけがえのない経験がたくさんできて、僕にとって日本は第二の故郷になりました」
◆思い出のキャンプ地
自身の「LINE」のプロフィール画像は、バファローズの秋季キャンプ地・高知市東部総合運動場で撮影した写真。2015年の当時から、一度も変えることはなかった。「いつかNPB球団の通訳になりたい」。気付いた時にはその夢を抱き、周囲に語るようになっていた。2023年WBCの侍ジャパン優勝をはじめ、日本の野球ニュースを耳にするたびに、その思いは膨らんだ。
昨秋、バファローズが陳投手を獲得することを知ると、すぐさま陳投手のエージェント会社に連絡を取ってアピール。バファローズの通訳募集に飛びついた。
◆「真面目で勤勉」
「とにかく真面目で勤勉。いつもメモを持ち歩いていて、何かあれば書き込んでいる姿を見ていました。現地でタクシーが捕まらなくて困っていたところを助けてもらったこともありました」
NPB球団の通訳を志望していることも耳にしており、面接で出会ったときは「やっぱり受けに来たんだ」。心の中でそうつぶやいた。
言葉を一つ一つ丁寧に選んで質問に答える蔡通訳は、どの面接官からも高く評価された。「人柄も良く、間違いないなと思いました。留学中にうちのキャンプでアルバイトをしていたことにも、縁を感じましたしね」。蔡通訳の採用が決まった。
◆陳投手の野球への覚悟
面接前に読み漁った陳投手のインタビュー記事。その中で印象的な言葉があった。「僕は野球を楽しいからやるのではない。仕事としてお金をもらって生活するためにやるんです」。18歳の青年が口にする言葉に、強い覚悟がにじんでいた。母国を離れ、挑戦を選択する姿にも深い共感を抱いた。「彼を支えるのはやりがいがあるに違いない」。そう確信していた。
「通訳は、誰よりも周囲をよく見て、常に一歩先を見据えて行動する仕事です。彼の未来に関わり続けられるのは本当に光栄なことです」
陳投手の成長も背負って
万全なサポートを期すために、陳投手が生活する選手寮「青濤館」に住んでいる。寝違えた陳投手に朝6時に電話で相談され、湿布を探してあげた日もあった。それも決して苦ではないという。「繊細さも彼の良いところ。それに、どんな悩みでも打ち明けてもらえる通訳が理想ですから」。優しげな笑みをこぼす。
挑戦への覚悟を胸に、海を越えてやってきた陳投手と蔡通訳。彼らが二人三脚で歩む日々が、やがてバファローズの未来を鮮やかに彩るだろう。(西田光)
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