絶対的本命の敗戦が競技を面白くする 番狂わせが目立ったロンドン世界陸上
世界記録保持者ハリソンがメダルを逃す
世界記録保持者のハリソン(右)は4位に沈み、メダルも逃した 【写真:ロイター/アフロ】
女子100メートルハードルでは世界記録保持者で昨年の全米五輪選考会で敗れてから世界選手権まで無敵の快進撃を続けていたケンドラ・ハリソン(米国)がメダルなしの4位に沈んだ。今大会では世界記録の更なる更新も期待されたハリソンだが、またしても大舞台の雰囲気に呑まれてしまったのか?
男子砲丸投げでは絶対的本命だったリオ五輪金メダリストで今季無敗の快進撃を続けていたライアン・クラウザー(米国)が今季ベストに1メートル45も足らない記録で6位に沈んだ。優勝したトーマス・ウォルシュ(ニュージーランド)は世界室内選手権での優勝経験もある選手なので、金メダルを取っても不思議ではない選手なのだが、クラウザーなら今季自己7番目の記録でも優勝していた。
男子やり投げで優勝したヨハネス・フェッター(ドイツ)は94メートルスローワーだが、本命は今季フェッターより安定的な成績を残してきた93メートルスローワーのトーマス・ローラー(ドイツ)だった。しかし世界記録も期待されたローラーは今季自己6番目タイの記録となる88メートル26しか投げられず4位に沈んでいる。
一方、男子800メートルでは伏兵が優勝した。
優勝したピエール=アンブロワーズ・ボッセ(フランス)も長くトップ近くに君臨している選手だが、国際選手権でのメダルは2012年欧州選手権での銅メダル1個。以前は注目されていたが、最近は優勝候補にはほとんど上がらない選手だ。
番狂わせの多さは肯定的な傾向
リレーでは英国(中央)が米国(左)に勝利している 【写真:ロイター/アフロ】
女子棒高跳びのエカテリニ・ステファニーディ(ギリシャ)対サンディ・モリス(米国)、女子三段跳びのようにジュリマール・ロハス(ベネズエラ)対カテリーン・イバルグエン(コロンビア)など大会前から期待された激闘が実現した種目もあった。
そして女子円盤投げのサンドラ・ペルコビッチ(クロアチア)、女子ハンマー投げのアニタ・ヴォダルチク(ポーランド)、男子110メートルハードルのオマール・マクレオド(ジャマイカ)、男子走高跳びのムタズ・エサ・バルシム(カタール)、男子三段跳びのクリスチャン・テイラー(米国)、男子ハンマー投げのパヴェウ・ファジェク(ポーランド)など絶対的本命が順当に優勝した種目もあった。しかし全体的な印象としては番狂わせが目立った大会だった。
しかし、番狂わせが多かったことは肯定的に見るべきだ。陸上競技の真髄は競い合いである。そして予想外の結果は陸上競技の観戦を面白くするものである。本命が順当に勝つより見ていてはるかに面白いのだ。伏兵(英語ではunderdogと言う)を応援することが好きな米国人は、女子3000メートル障害のように伏兵の米国選手がメダルを獲得すると大騒ぎする。
日本でも次回の19年ドーハ大会で伏兵の日本選手がメダルを獲得すれば翌年の2020年東京五輪で陸上競技の選手たちが一躍注目され、一段と盛り上がるだろう。