指揮官交代は浦和“変革”の合図となるか 5年半のペトロヴィッチ体制を総括する

島崎英純

センセーションを巻き起こした攻撃的なスタイル

約5年半にわたる浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制が終えんを迎えた 【写真:アフロスポーツ】

 兆候はあったが、修復できなかった。

 浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制が終焉(えん)を迎えた。2012年から約5年半の間チーム強化を進め、年を追うごとに勝ち星を積み上げてきたチームが突如崩壊した。

 特殊なシステムを用い、アグレッシブなスタイルを標榜する稀有(けう)なチーム。ペトロヴィッチ監督が掲げた理想と哲学は日本サッカー界にセンセーションを巻き起こし、彼が率いたサンフレッチェ広島、そして浦和は約11年の長きにわたって素晴らしい実績を残した。獲得した国内3大タイトルは広島時代、浦和時代を合わせて16年シーズンのYBCルヴァンカップ1冠のみだが、浦和との契約を解除してチームを去った今も、ペトロヴィッチ監督の果たした功績は多大だ。 

 17年シーズンも序盤は順調なスタートを切った。リーグ、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の並行開催で過密日程を強いられる中で、浦和はリーグ戦第7節終了時で首位に立ち、ACLでは2年連続のグループステージ突破を決めた。

 昨季のJリーグで史上最多タイの年間勝ち点74を積み上げた成果は、チャンピオンシップ決勝で鹿島アントラーズに敗れたことでかすんでしまった。ならば今季は、これまで以上にアグレッシブな姿勢で相手を凌駕(りょうが)する。その意欲は公式戦開幕前の強化キャンプで存分に示され、前線からのプレス&チェイス、ハイラインコントロール、ハーフコートポゼッションなどの指針を掲げて、新たなる挑戦を仕掛けた。

チーム構築期間の欠如が大きなハンディに

今季の浦和は例年以上にシーズン開幕時期が早まり、序盤から過密日程を強いられることに 【(C)J.LEAGUE】

 ただ、今季の浦和にはハンディがあった。それは他クラブの動向によって急遽前倒しされたシーズンスケジュールと、それに伴うチーム構築期間の欠如である。

 浦和の17年シーズンの日程は今年元日の天皇杯決勝に進出した鹿島の動向で変更される余地があった。当初は1次キャンプを1月16日から29日までの14日間、2次キャンプを2月1日から2月16日まで15日間張る予定で(共に沖縄県)、その間に開催される2月12日の『さいたまシティカップ』FCソウル戦はリザーブメンバーのみが埼玉へ戻り、主力選手はキャンプ地に居残るプランをもくろんでいた。

 しかし、結局リーグチャンピオンの鹿島が天皇杯を制したことで、リーグ2位の浦和は2月18日に開催されるゼロックス・スーパーカップへの出場が決まり、中2日の21日にはACL・グループステージ初戦をオーストラリアのシドニーで戦うことになった。つまりチームは例年以上にシーズン開幕時期が早まり、序盤から過密日程を強いられたのだ。そこでペトロヴィッチ監督は本来体力強化に充てるべき1次キャンプの時期から戦術練習に着手し、2次キャンプでも子細な指導を施して、新たなスタイルへの移行を進めた。一方で、選手たちはフィジカルメニューに取り組む時間が限られて体力強化とコンディション調整に苦慮しているように見えた。

 また、ペトロヴィッチ監督が標榜する新戦術にアダプトできた選手と、できなかった選手の差が開いたこともチーム構築を難しくした。特定ユニットの機能性が高まる裏で、選手を入れ替えたときのハレーションが顕著になる。そこでチーム力の安定を図る名目で主力選手を重用するも、それが疲労蓄積につながり、チーム全体のバイオリズムが下降線をたどった。DFの槙野智章、遠藤航、森脇良太が対人勝負に敗れ、GK西川周作やMF阿部勇樹の主軸がプレー精度を落としてピンチを誘発したのは、彼らが担った負担の大きさを指し示していた。

主力選手のコンディション低下と高齢化

今季は主力選手が対人プレーで遅れを取り、これが守備の決壊につながった。攻撃陣の守備貢献の希薄さが影響したとも考えられる 【(C)J.LEAGUE】

 そもそも、ペトロヴィッチ監督が毎年主力をある程度固定してチーム構築を進めた理由は、チームスタイルをできるだけスムーズに、かつ高度に機能させる意図があったからだ。攻守で可変するフォーメーション、緻密で計算されたパターン攻撃は日々の訓練で培い、多くの実戦を経て熟成を果たす。ペトロヴィッチ監督は自らが備える哲学の「色」を十分に捉えていて、あえてチーム内に序列を形成することで戦術の昇華をもくろんだのだと思う。ただ、今季は頼みの綱の主力選手がコンディションを落としてチーム成績が低下した。これは指揮官が信頼を寄せてきた選手たちの平均年齢が30歳前後を迎えたことも影響しているかもしれない。
 
 ペトロヴィッチ監督は守備の練習をしない指揮官だと言われてきた。これはある意味正解で、ある意味では間違っている。

 確かにユニットでの囲い込みやバックラインのラインコントロール、カバーリングなどの直接指導は行われなかったし、在任約5年半の中でセットプレーの練習に時間を割くのは稀(まれ)だった。しかしミニゲームなどの実践練習を通して、攻守転換時のアプローチ徹底を施す手法などは用いられ、特定の選手がそれを遵守して守備組織が整備された事象もある。実際、16年シーズンの浦和はリーグ戦34試合でリーグトップの28失点という記録を残している。ただ、今季は主力選手が対人プレーで遅れを取り、これが守備の決壊につながったのは事実。そしてもう1点、今季の浦和の守備力低下は前線の攻撃的選手たちの守備貢献の希薄さが影響したとも考えられる。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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