アジアでの戦いをにらみながらの頂上決戦 ゼロックスで感じた、鹿島と浦和の強み
3日後のACLを考慮したラインナップ
蛍光ピンクのセカンドユニホームでゼロックスに臨む鹿島は4人の新戦力がスタメン出場 【宇都宮徹壱】
ゼロックスという大会が素晴らしいのは、当該チーム以外のサポーターにも楽しめる「仕組み」が施されていることだ。前座試合の「NEXT GENERATION MATCH」では、各クラブユース所属の選手が出場するが(今年はFC東京U−18の久保建英に注目が集まった)、ピッチ外で不思議な盛り上がりを見せるのがJリーグマスコット総選挙。実際、自分のサポートクラブのマスコットが、しかお(鹿島)やレディア(浦和)よりも上位となることに、密やかな溜飲を下げているファンも少なくないはずだ。今年、1位となって栄えある「センターポジション」を獲得したのは、サンフレッチェ広島のサンチェ。2年ぶり2回目の栄冠であった。
前座と余興が終わったところで、いよいよメーンイベント。配布されたメンバー表を見て、まず注目したいのが新戦力の起用である(以下、カッコ内は前所属)。鹿島はGKに不動の守護神、曽ヶ端準ではなくクォン・スンテ(全北現代=韓国)を起用。この他にも三竿雄斗(湘南ベルマーレ)、レオ・シルバ(アルビレックス新潟)、ペドロ・ジュニオール(ヴィッセル神戸)がスターティングリストに並んだ。浦和は対照的に、新加入選手でスタメン起用されたのは菊池大介(湘南)のみ。ただしよく見ると、興梠慎三はベンチスタートだし、柏木陽介や槙野智章はベンチにも入っていない。
柏木については「前日練習で足を痛めた」(ミハイロ・ペドロヴィッチ監督)そうだが、それ以外の陣容については3日後のACL(AFCチャンピオンズリーグ)を考慮したものと見ていいだろう。火曜日にアジアの戦いがあるのは鹿島も一緒だが、浦和はオーストラリアでのアウェー戦(キャンベラでウエスタン・シドニー・ワンダラーズと対戦)。遠征の負荷を考慮すれば、十分に納得できるラインナップだ。このゼロックスは「現時点の実力」のみならず、ACLも含めた長いシーズンを占う「総合力」が試される一戦と言える。
ペトロヴィッチ監督の修正で同点に追い付いた浦和
前半は優位に立つも2失点を喫した浦和は、興梠と武藤の連続ゴールで同点に追い付く 【宇都宮徹壱】
武藤の懸念は、前半39分に現実のものとなる。西大伍のダイアゴナル(斜め)のドリブルからファウルをもらい、鹿島がペナルティーエリア中央付近でFKのチャンスを得た。今季からJリーグでも採用される、バニシング・スプレーでボールと壁の位置が示されると、レオ・シルバが味方に細かい指示を与える。しかし蹴ったのは左利きの遠藤康。浦和GK西川周作は反応できず、弾道はゴール右隅へ。これが決まり鹿島があっさり先制する。さらに43分には、レオ・シルバがインターセプトからスルーパス。土居聖真を経由して金崎夢生が放ったシュートは、ゴールポスト右にはじかれたものの遠藤が詰めて、鹿島が追加点を挙げる。
前半に2点のビハインドを負った浦和だが、後半はペトロヴィッチ監督の修正の妙が光った。ハーフタイムで李忠成に代えて興梠を同じシャドーのポジションで起用。さらに後半19分には、菊池と駒井善成を下げて、ジェフ千葉から復帰した長澤和輝と関根貴大をピッチに送り込んだ。そしてボランチの阿部勇樹を最終ラインに下げ、ワイドの右に関根、左に宇賀神友弥を移動させることで、反撃の態勢を整える。後半29分、自身のドリブル突破でPKのチャンスを得た興梠が、冷静にゴール右に決めて1点差。そのわずか1分後には、関根の右からのクロスにズラタンが頭で反応し、ポストにはね返ったボールを武藤が左足で押し込んで、ついに浦和が同点に追い付く。
ゼロックスは同点で90分を終えれば、延長戦なしのPK戦となる。6年ぶりのPK戦をかすかに予感した後半38分、この試合最後のゴールが生まれた。浦和の遠藤航が、相手の縦方向のパスをGKへのバックパスで処理しようとした時、途中出場の鈴木優磨が背後から左足を伸ばす。ボールはコースを変えてGK西川の横をすり抜け、そのままネットを揺らした。「今日のピッチは水をまいていなかったので、ボールが止まりやすいのも把握していました。可能性があると思って狙った」とは、決めた当人の弁。結局これが決勝点となり、3−2で競り勝った鹿島が今季最初のタイトルを手にすることとなった。