浦和がシーズン序盤で見せた2つの顔 国内で苦戦し、ACLで快勝できた理由

島崎英純

ペトロヴィッチ体制6年目、一貫した強化指針

ペトロヴィッチ監督体制6年目を迎えた浦和。今季もチーム強化指針は一貫している 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 昨季のJリーグチャンピオンシップ(CS)決勝で敗れた鹿島アントラーズと対峙(たいじ)した「FUJI XEROX SUPER CUP 2017(以下、ゼロックス)」。浦和レッズは遠藤康にFKを含む2ゴールを奪われた後に猛反撃し、一時は興梠慎三、武藤雄樹の連続得点で同点に追いついた。しかし最後はリベロ・遠藤航のバックパスを鈴木優磨にさらわれて決勝ゴールを浴び、2−3で敗戦を喫した。続くACL(AFCチャンピオンズリーグ)グループステージ第1節のウエスタン・シドニー・ワンダラーズ戦はアウェーながら4−0で快勝。だがオーストラリアのシドニーから帰国して中3日で臨んだJリーグ第1節の横浜F・マリノス戦ではまたしても3失点して結果を得られなかった(2−3)。

 昨季のJリーグで年間34試合を戦い、勝ち点74を積み上げた浦和。CSでは同勝ち点59で年間3位の鹿島に敗れたが、築き上げたチームスタイルへの自信は揺るがず、今季1月中旬から2度にわたって実施された沖縄キャンプでもチーム戦術の成熟に務めて準備万端、新シーズンに臨んでいた。

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督のチーム強化指針は一貫している。「3−4−2−1」のスタートポジションから攻撃時、守備時に可変するシステムを採用し、選手には明確な役割を与えて幾通りにもわたるパターンを繰り出す。一見すると浦和の攻撃はさまざまな選手が流動的にピッチを駆ける印象を持つが、実態は異なる。選手はあらかじめ決められた配置を順守した上で日々の練習で修練した「型」を駆使している。肝になるのは多大なパターンの取捨選択だ。これこそが、浦和の選手が本番のピッチで課せられるスキルである。

世代交代を見据え、24歳前後の選手を補強

今季は監督のチームコンセプトにマッチする24歳前後の選手を補強した 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 今季の沖縄キャンプで、ペトロヴィッチ監督が選手たちに徹底させた戦術骨子は以下の通り。

1.前線のトライアングルへのクサビパス
2.サイドチェンジ
3.ワイド&センターの使い分け
4.1タッチ、もしくは2タッチでのパス展開
5.コンビネーション
6.複数人による連動
7.攻守転換スピード
8.ダイアゴナル(斜めに走る動き)
9.ハイラインコントロール
10.ハイプレッシング

 項目は昨季までと変わらない。一貫したチームコンセプトだ。だが今季は、その質とスピードをさらに求めている。特にバックラインを高く押し上げて敵陣でプレーし続ける約束事はチームがさらなるレベルアップを図るためにも譲れない、指揮官が目指す必須項目だった。

 今季の浦和は新戦力を8人迎えた。GK榎本哲也(←横浜FM)、福島春樹(←ガイナーレ鳥取)、DF田村友(←アビスパ福岡)、MF菊池大介(←湘南ベルマーレ)、矢島慎也(←岡山)、長澤和輝、FWオナイウ阿道(←ともにジェフ千葉)、ラファエル・シルバ(←アルビレックス新潟)。※福島、矢島、長澤は期限付き移籍からの復帰

 いずれも前所属クラブではレギュラークラスで出場していた選手たちだが、1人の存在がチーム戦術を改変させるだけの影響力はない。例えばラファエルは昨季在籍した新潟でチームトップの11得点をマークした優秀なアタッカーだ。ペトロヴィッチ監督のチームコンセプトにマッチする能力が評価されて1トップ、もしくはシャドーでの起用が目される。しかしチームは彼を中心にチーム戦術を構築しようとは考えておらず、あくまでも既存選手の興梠、武藤、李忠成らと融合させて攻撃促進を図ろうとしている。また菊池はチョウ・キジェ監督率いる湘南で鍛え上げられたサイドアタッカーで、スピードとスタミナを併せ持ち、ペトロヴィッチ監督が望むサイドアタッカー像に当てはまる選手だ。彼の役割は宇賀神友弥、関根貴大らと同様で、豊富な運動量でサイドエリアを制圧し、攻守両面に関与することが求められている。

 ペトロヴィッチ監督は2012年の就任以降、確実にチーム成績を向上させ、昨季は自身初タイトルとなるルヴァンカップを制覇した。またチーム陣容も年度ごとに強化され、GK西川周作、DF槙野智章、遠藤、森脇良太、MF阿部勇樹、柏木陽介、宇賀神、関根、FW武藤、李、興梠といった主力たちが指揮官の意をくんでハイレベルなプレーを展開している。だがプロサッカークラブには必ず世代交代が訪れ、陣容刷新を迫られる時期が来る。クラブはそれを見越して今季の新戦力は24歳前後の選手をターゲットに獲得を進めた。

チームコンセプトの浸透に時間を費やす

ペトロヴィッチ監督のサッカーでは、各選手のポジショニングが重要となる 【写真:アフロスポーツ】

 ペトロヴィッチ監督はキャンプでのトレーニングや練習試合でニュートラルに選手たちと接し、所属選手全員にチームコンセプトの浸透を促した。例えば前線トライアングルと称される「1トップ+2シャドー」の陣容は日々の練習や実践でさまざまに組み合わせを変え、どんなユニットでも等しく戦術に順応できるような準備を施した。

 浦和の指揮官が持つ理念は攻撃メソッドに特化されている。攻撃パターンの習熟に訓練の大半が割かれるのが証左で、選手たちは常に攻撃志向を備えて戦う意思を築かれる。監督は「攻撃練習の中にも守備側の役割をこなす選手がおり、そこで守備の鍛錬はできる」と述べるが、セットプレーのパターン練習や守備時の約束事を修練しない所作からは、やはり現チームの極端な傾向が読み取れる。

 それでも浦和は昨季リーグ最小の34試合28得点を記録している。それはペトロヴィッチ監督が課す「ポジションサッカー」が効力を発揮していると言えよう。前述したように、ペトロヴィッチ監督のサッカースタイルは究極のパターンに集約されていて、各選手のポジショニングは攻撃時、守備時で可変するものの、そこに「流動的」な概念はない。確立されたポジショニングによる攻守の機能性でスペースを埋め、エリアを受け持つ選手たちの対人能力で相手を凌駕(りょうが)している。裏を返せば、各選手のポジショニングが整わなければ、浦和守備網は決壊する。

1/2ページ

著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント