欧州サッカー史上最大の「番狂わせ」 語り継がれる、一度限りの化学反応の賜物

片野道郎
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提供:スポナビライブ

サッカーというのは不確実性の高いスポーツである 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 サッカーというのは必ずしも強いチームが必ず勝つとは限らない、不確実性の高いスポーツである。とはいえ、両チームの実力差があまりにも明らかなほど開いている場合に、弱い方のチームが勝つ確率は数パーセントがいいところだろう。10回戦って1回勝てばそれだけでも驚き、というレベルである。

 それだけに、それがビッグトーナメントの決勝のように重要な舞台で起こった時には、歴史的な出来事として長く記憶されることになる。勝ったチームにとって、それこそ末代まで語り継ぐべき輝かしい偉業であることはもちろん、負けたチームにとっても、また決して忘れることができない悲劇となるからだ。

 例えば、スポナビライブで放映中の番組『FOOTBALL COUNTDOWNS』の第9回「史上最大の番狂わせ」で第2位にランクされたユーロ(欧州選手権)2004決勝のポルトガル対ギリシャである。

「守り倒し」でポルトガルを破ったギリシャ

CLを制覇したデコ、当時19歳のC・ロナウド(写真)ら豪華な陣容のポルトガルだったが…… 【写真:アフロ】

 円熟の域に達したルイス・フィーゴ、ジョゼ・モウリーニョ監督率いるポルトの中心選手として、これも番狂わせと言えるチャンピオンズリーグ(CL)優勝を勝ち取ったばかりのデコ。そして、まだ1対1のドリブル突破以外にレパートリーを一切持っていなかった当時19歳のクリスティアーノ・ロナウドらを擁し、開催国として順当に決勝まで勝ち進んだポルトガルが、「守り倒し」と言うしかない徹底した弱者の戦術でスペイン、フランス、チェコという強豪を次々と蹴落とし、この大会最大のサプライズとして勝ち上がってきたギリシャに敗れた試合である。

 開催国ポルトガルは、多くのスタジアムを新設するなど、国を挙げてこの大会の成功に注力してきた。そうして迎えたこの決勝は、これまでワールドカップ(W杯)やユーロというビッグトーナメントで1度もタイトルを勝ち取ったことのないこの国にとって、自国開催で初タイトルを勝ち取るという美しいシナリオの大団円となるはずの試合であった。また、長年代表を支えてきたフィーゴ、ルイ・コスタ、フェルナンド・コウトという「黄金世代」の生き残りが「無冠」というありがたくない呼び名を返上する、最後のチャンスでもあった。

 にもかかわらず、ただひたすら相手の攻撃を壊すことだけに専念するギリシャの前に、焦りばかりが先に立って不完全燃焼に陥ったポルトガルは、後半12分にこの試合初めて与えたCKから失点すると、その後も何もできないまま、ずるずると敗れてしまった。

 試合終了のホイッスルが鳴った後のスタジアムは、祝祭どころか葬式のような空気に包まれた。勝ったギリシャはそれをたたえられるどころか悪役扱いを受け、敗れたポルトガルが悲劇の主人公として世界中から同情を集めるという、アンチクライマックスの極みとしか言いようがない結末だった。

 そのポルトガルが、12年後のユーロ2016決勝で今度は開催国フランスを破り、悲願の初タイトルを勝ち取ることになるのだから、運命というのは皮肉なものである。というよりも、サッカーの神様もなかなか芸が細かい、と言った方がいいのかもしれない。

「超特大の番狂わせ」を実現したレスター

レスターのプレミア制覇は歴史上、二度と起こらないほどの偉業だ 【Getty Images】

 同じ番狂わせでも、このギリシャのように偶然や運を味方につければ起こり得る1試合限りの番狂わせではなく、チームとしての本当の実力が試されるシーズンという単位で、常識ではまったく考えられない超特大の番狂わせを実現したのが、この番組のランキングで1位になったレスター・シティのプレミアリーグ制覇だ。これはおそらく、歴史上2度と起こらないほどの偉業である。

 チームの戦力を測るひとつの基準に、登録選手の時価総額というのがある。一般的に言えば、移籍市場で高い値段がついている選手ほど能力が高いわけで、選手の時価総額が高いチームほど強いというのは、少なくとも机上の論理としては成り立つ議論である。

 移籍情報サイト『Transfermarkt.com』のデータによると、この15−16シーズンの開幕時点で、レスターの登録選手の時価総額はプレミアリーグ20チーム中19位。チームで最も評価額が高かったのは、この年マインツから移籍金1100万ユーロ(約14億4000万円)で獲得した岡崎慎司だった。このシーズンの活躍で、1年後にはチェルシーに3580万ユーロ(約46億9000万円)で売却されたエンゴロ・カンテも、開幕時の評価額は450万ユーロ(約5億9000万円)にすぎなかったのだ。

 しかし、下馬評ではプレミアリーグに残留できれば上出来という評価でしかなかったレスターは、開幕から好調を維持して11月に首位に立つと、その後もペースを落とすことなく勝ち点を積み重ねる。そして、アーセナルやマンチェスター・シティというワールドクラスのスター選手をずらりとそろえた強豪チームを寄せ付けないまま、独走優勝を勝ち取ってしまった。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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