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欧州サッカー史上最大の「番狂わせ」
語り継がれる、一度限りの化学反応の賜物

提供:スポナビライブ

選手たちに「週休2日」を約束したラニエリ

チームの「集団としての力」を引き出したラニエリ。選手と初めて話したとき、ある言葉を掛けたという
チームの「集団としての力」を引き出したラニエリ。選手と初めて話したとき、ある言葉を掛けたという【Getty Images】

 チームを率いたのは、1990年代から母国イタリアのみならずスペイン、イングランド、フランスで強豪チームを率いてきたベテラン監督クラウディオ・ラニエリ。ビッグタイトルを勝ち取った経験こそほとんどなく、かつてはそれをモウリーニョに揶揄(やゆ)されたこともあったが、「ティンカーマン(修繕屋)」というニックネームが示すように、既存の戦力をやり繰りしつつチームとしてまとめ上げ、手堅く結果を勝ち取るリアリスティックな手腕には定評があった。


 とはいえ、すでに63歳(当時)という年齢に加え、前年にはギリシャ代表監督をわずか数カ月で解任されるなど実績も下り坂だったことから、マスコミの見方は悲観的だった。イギリスの新聞『ザ・ガーディアン』のシーズン予想記事では、11人の専門家のうち9人が降格を予想したほどだった。


 誰が見ても弱小チームでしかないレスターが、すべての予想を覆してあり得ない優勝を勝ち取った理由については、すでにさまざまなところで分析されている。確かなのは、個々のプレーヤーが持てる実力を最大限に、しかもコンスタントに発揮しただけでなく、それがひとつのチームとして有機的に結合し、単なる「個人能力の総和」を超えた集団としての力を生み出したことだろう。


 ラニエリの功績はまさに、それをチームから引き出し、シーズンを通して最大レベルに保ち続けたところにある。いかにしてそれを実現したかについては、ラニエリ本人が興味深い事実を明かしている。


「初めて選手たちと話した時、彼らが複雑な戦術を押しつけられるのではと恐怖感を抱いているのがわかった。イタリア人監督というのはそういうものだという先入観を持っていたんだ。だから私はこう言った。君たちを信頼している、奇跡的な残留を勝ち取った昨シーズン終盤と同じように、死に物狂いで走ってくれさえすれば、戦術がどうという難しいことは言わない。練習でも試合でも常に全力を出し切ると約束してほしい。その代わりに週2回の休日を認めよう、とね」

“再現不可能”だからこそ、語り継ぐ価値がある

「番狂わせ」とは、さまざまな要因が重なって起きた実現不可能な科学反応。だからこそ、語り継ぐ価値がある
「番狂わせ」とは、さまざまな要因が重なって起きた実現不可能な科学反応。だからこそ、語り継ぐ価値がある【写真:ロイター/アフロ】

 実際、このシーズンのレスターが見せたサッカーは、複雑な戦術とはまったく無縁だが、90分を通してフルスロットルで走りつ続けるという、まさにラニエリがチームに要求した通りのものだった。あえて単純化すれば、10人が自陣に戻って、アグレッシブにボールを追い回し、ボールを奪えばジェイミー・バーディーのカウンターアタックか、リヤド・マフレズのドリブル突破でゴールに向かって直進する、というだけのサッカーである。


 ワールドクラスのトッププレーヤーと名監督が集結する世界で最もリッチなリーグで、斬新なアイデアに基づいた緻密な戦術でもなければ、才能溢れるスター選手のスーパープレーでもなく、全員が力を合わせて持てるすべてを出し切って仲間のためにプレーする。これ以上ないほどシンプルで古典的な、それこそフットボールの原初的なあり方を再現したようなサッカーを貫いたチームが優勝を勝ち取ったというのは、非常に考えさせられる話だ。


 だが、さらに示唆的なのは、この翌シーズンにレスターがたどった道だ。CL参戦によって「週2回のオフ」が不可能になり、心身に未知の負担がのしかかったことに加え、結果が出ないことに焦ったラニエリ監督がシステムや戦術をあれこれいじり始めると、レスターは魔法が解けたように、かつてと同じ単なる弱小チームに逆戻りしてしまった。チェルシーに移籍したエンゴロ・カンテ以外の優勝メンバーがすべて残留したにもかかわらずだ。


 1試合限りの番狂わせと同じように、1年間という長いタームで起こったリーグ優勝という番狂わせもまた、さまざまな要因が奇跡的にかみ合った時に、あらゆるロジックを超えたところで起こる一度限り、再現不可能な化学反応の賜物(たまもの)なのだろう。だからこそ、こうして語り継ぐだけの価値を持っているのだ。


※選手評価額の日本円は17年8月3日現在のレートで換算

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片野道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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