悩めるネイマールの行く末は? 狂気の移籍金が飛び交うヨーロッパの夏

ネイマールにとってバルサは最適な環境だが……

ネイマールにとってバルセロナは、プレー面でも人間関係でも最適な環境だと言えるが…… 【写真:ロイター/アフロ】

 ネイマールの移籍問題が投げ掛ける疑問はもう1つある。彼のようなスター選手にとって、クラブやチームメートといったプレー環境は、彼個人の利益と比べてどれだけ重要なのかということだ。ネイマールにとってバルセロナは、プレー面でも人間関係でも最適な環境だと言える。実際、一時的な落ち込みはあったにせよ、昨季のパフォーマンスは素晴らしいものだった。

 にもかかわらず、ネイマールが移籍を検討しているのは、将来的に世界最高の選手になることを意識しているからだろう。既に彼はバロンドールの上位3人に選ばれたこともあるわけだが、バルセロナでプレーしている限り、常にメッシの陰に隠れることになる。チームメートにはクラブで手にした獲得タイトルで差をつけることもできない。つまり世界最高の個人賞を手にするためには、ユニホームを変えるほかないのである。

 その点、PSGで新たなプロジェクトの主役として成功することができれば、目指すスターダムの頂点にたどり着ける可能性がある。年俸は倍増するし、友人のアウベスをはじめ、ブラジル代表の仲間が何人も所属していることもプラスになるだろう。

 ネイマールを悩ませている理由は他にもある。バルセロナのフロントがこのような事態に至ることを予見せず、公私にわたって彼らスター選手のサポートを怠ってきたことだ。例えば、ネイマールが親しくしていたチーム内のブラジル人選手の数は年々減ってきている。些細なことに思えるかもしれないが、そういった配慮は決して軽視すべきことではないのである。

「強化プラン」という大義は二の次に

モナコのキリアン・ムバッペはレアル・マドリーに移籍することになるか 【写真:ロイター/アフロ】

 レアル・マドリーがムバッペを獲得した場合、チーム内で新たな競争が生じることになる。BBC(ギャレス・ベイル、カリム・ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)は今季もアンタッチャブルな存在であり続けるだろうが、昨季はシーズン終盤のマルコ・アセンシオを除いて際立ったアピールができなかった他の選手たちにとって、先発争いはさらに厳しくなるはずだ。また18歳という若さに加え、ジネディーヌ・ジダンと同じフランス出身の選手という点でも、ムバッペの獲得は将来性抜群のエクセレントな補強だと言える。

 今回はリーガ・エスパニョーラの動きのみ触れてきたが、同じ傾向は他国のトップリーグにも当てはまる。マンチェスター・シティやチェルシー、PSGといったメガクラブは、国内リーグの開幕が間近に迫っていることなど気に留めず、8月末までビッグネームの獲得競争を続けることだろう。

 フットボールビジネスがフットボールそのものを凌駕(りょうが)し始めた現状、スター選手を獲得できるチャンスがあれば、どのクラブも時を選ばず飛びつくようになっている。その際、「強化プラン」などという大義は二の次とされてしまうのである。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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