闘将、寡黙なリーダー、バンディエラ…… クラブの歴史を彩る偉大なキャプテンたち

片野道郎
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提供:スポナビライブ

生え抜きのレジェンドがキャプテンを継承する幸せ

左からプジョル、シャビ、イニエスタ。バルセロナのキャプテンは生え抜きの手で受け継がれてきた 【写真:ロイター/アフロ】

 このように、歴史と伝統を誇る名門の中には、クラブの哲学とスピリットを体現する生え抜きのレジェンドがキャプテンの座を継承していくという、これ以上ないほどの幸福と幸運に恵まれたチームがいくつかある。

 例えばバルセロナ。現キャプテンのアンドレス・イニエスタは、クラブが誇る育成部門「ラ・マシア」がまだカンプノウに隣接していた時代を知る最後の世代だ。そのイニエスタが腕に巻くキャプテンマークは、90年代前半にクライフ監督の下でリーガ4連覇を果たし、「ドリームチーム」と呼ばれた黄金時代の申し子、ジョゼップ・グアルディオラ以来、カルレス・プジョル、シャビら、主にラ・マシアで育った生え抜きの手で受け継がれてきたものだ(00年代初頭に2年間だけオランダ人のフィリップ・コクーが主将を務めたが)。

 とはいえ残念ながら、バルセロナのこの生え抜きキャプテンの系譜は、イニエスタを最後にいったん途絶えそうな気配である。たとえどれだけ育成に力を入れていても、チームのシンボルとなり得るような偉大なプレーヤーを10年に1人ずつ輩出するのはきわめて困難なことなのだ。ライアン・ギグス(マンチェスター・ユナイテッド)やジョン・テリー(チェルシー)、スティーブン・ジェラード(リバプール)、そしてフィリップ・ラーム(バイエルン)のように、引退後もレジェンドとして語り継がれるような偉大な生え抜きのキャプテンを1人生み出すだけでも、クラブにとっては素晴らしい僥倖(ぎょうこう)なのだと考えるべきなのだろう。

ミランを支えた「キャプテンの系譜」

ともに優勝カップを掲げたチェーザレ(左)とパオロのマルディーニ親子 【Getty Images】

「キャプテンの系譜」という点で最も美しく、また信じられないのは、ミランのそれだろう。50年代半ばから00年代半ばまでの半世紀を通じて、ミランにはたった5人のキャプテンしかいなかった。58年のワールドカップ・スウェーデン大会で準優勝した開催国の主将でもあったニルス・リードホルムに始まり、63年にイタリア人として初めて欧州チャンピオンズカップを天に掲げたチェーザレ・マルディーニ、60年代半ばから70年代末までミランのシンボルでありつづけたジャンニ・リベラ、セリエB降格からアリゴ・サッキ、ファビオ・カペッロの黄金時代までという80年代から90年代にかけての地獄と天国をキャプテンとして生きたフランコ・バレージ、そしてアンチェロッティのもとで二度のチャンピオンズリーグ制覇を成し遂げたパオロ・マルディーニ。彼らの姿は、それぞれの時代のシンボルとして、ミラニスタの記憶に深く刻まれている。

 バレージとP・マルディーニはミランの生え抜きだったが、その前の2人、リベラとC・マルディーニは、地方の小さなクラブで育ち、20歳前後でミランに引き抜かれた。彼らのように、生え抜きとは言わずとも、キャリアの大部分をひとつのクラブで過ごし、“バンディエラ”となった偉大なキャプテンは、多くの場合そのクラブが過ごしたひとつの時代を象徴し、記憶に残す存在となる。例えば、ハビエル・サネッティ(インテル)、ジャンルイジ・ブッフォン(ユベントス)、そして生え抜きのイケル・カシージャスからキャプテンマークを引き継いだセルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)。

カシージャス(右)からキャプテンマークを引き継いだセルヒオ・ラモス。強いチームには、偉大なキャプテンがいる 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 逆に言えば、こうした偉大なキャプテンがいないチームは、ピッチ上でもパッとしない時代をおくっているケースが多いということになる。実際、強いチームは必ずといっていいほどそのキャプテンの姿が頭に思い浮かぶものだし、戦力がそろっていながらいまひとつぱっとしないチームは、キャプテンの存在感が薄いというケースが少なくない。キャプテンのリーダーシップと求心力が、チームの結束と勝利にとってどれだけ大きな役割を果たしているかが、この一例を見ても分かるだろう。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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