リハビリ中の岩隈が見定める自身の姿 “もう少し”が遠い復帰への道

丹羽政善

「まだ無理」と自身で認識

14日の1Aでの登板後は笑顔も見せていた岩隈だが復帰へはまだ時間がかかりそうだ 【写真は共同】

 まず岩隈は1Aでのリハビリ登板を振り返り、「ある程度は、できるかな」と思ったそうだが、3Aで投げた時には、「まだ(復帰は)無理」と、自分の現在地を認めるしかなかったようだ。

「ブルペンやキャッチボールでは、強い球を投げられるようになっても、試合になると違う。腕を振れるようになってきたけど、試合ではもっと振らなきゃけない」

 それが思うようにできないのは、まだ、どこかで怖さがあるのだろうか。無意識のうちに、体がブレーキをかけているのだろうか。

 それでも、もう少しという手応えはあるようだが、ここからの“もう少し”が遠い。“百里を行く者は九十里を半ばとす”と言うが、残り10%の仕上げは、ここまでのリハビリと同等の時間と慎重さが求められるかのもしれない。

契約については「割り切っている」

 いずれにしてもこれで、7月上旬の復帰はなくなった。戻れるとしたら、早くてもオールスター明けか。こうなると、来季の契約への影響が避けられない。昨年と今年で合わせて324イニングを投げれば、年俸1500万ドル(約17億円)の来季契約が自動的に更新されるはずだったが、昨年の199イニングと今年の31イニングを足して、現時点で230イニング。

 となると、後半の2カ月半で、94イニングを投げる必要がある。不可能な数字ではないが、ハードルは低くない。仮に後半の初めから復帰できたとしてシーズン最後まで投げ切っても、先発機会は13〜14試合程度。14試合として94回に達するには、1試合あたり6回2/3を投げる必要がある。

 ただ、契約に関して岩隈は、「そこはもう、割り切っている」と話した。

「最初は少し考えましたけど、多分、誰も契約のことを考えて投げていないと思う」

 岩隈は、「それよりも」と言ってから、こう強調した。

「復帰して、納得のいくピッチングができるかどうか。それができないと、投げていても面白くないですから」

 自分の経験値から、まずは相手を打ち取るイメージを描く。スイングなどから、相手の狙いを探る。ならば、ここにこういう球を投げれば、抑えられるのではないか。彼のピッチングの真髄は、そこに意図した球が投げられるかどうか。そこに快感も潜むが、今はまだ、そうしてピッチングを楽しめるレベルにはない。となると当然、結果もついてこない。

 岩隈は、「今は、自分のことで精一杯」とも言う。マリナーズは、プレーオフ争いのギリギリのところで踏みとどまっており、岩隈の復帰は大きな意味を持つが、自分のピッチングができるようになって初めて、チームに貢献できるとも考える。ピラミッド状に積み上げたシャンパングラス全体にシャンパンを満たすとしたら、まずは自分自身を象徴する一番上のグラスを満たさなければならないのだ。

 どうだろう。仮に後半から復帰し、今季の投球イニング数が限りなく125回に近づくなら、チーム全体のグラスが満たされているのかもしれないが、そのためには、「日々、できることをやるだけ」と岩隈は言う。

 彼の目は、焦らず、求める姿をじっと見定めていた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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