気付けば、欧州屈指のフットボールシティ コンフェデ杯都市探訪<モスクワ篇>

宇都宮徹壱

スパルタク・スタジアムは一見の価値あり!

来年のW杯で現地を訪れた際にお勧めしたいのが、モスクワのスタジアムめぐりだ 【宇都宮徹壱】

 試合そのものにさほど見どころがない中、個人的に感動したのがスパルタク・スタジアムの素晴らしさであった。まず立地。クレムリンのあるモスクワの中心街から、最寄り駅のスパルタクまで地下鉄で30分弱。駅を出たら、もう目の前がスタジアムである。外壁はスパルタク・モスクワのクラブカラーである赤と白に統一され、周囲の緑と青空に心地よく溶け込んでいる。収容人員は4万5000人。12あるW杯の会場では3番目の大きさだが、球技専用なので非常に見やすい上に、ピッチ上の攻防がダイレクトに伝わってくる。国内屈指の人気を誇る、名門スパルタク・モスクワにふさわしいスタジアムであると言えよう。

 1922年設立のスパルタクは、旧ソ連時代からの強豪クラブとして知られており、ソ連崩壊直後の90年代は国内ではほぼ無敵の存在であった。人気、実力、実績、いずれも突出した存在だったものの、唯一足りていなかったのがスタジアム。「独自のスタジアムを」という機運が高まることがあっても、そのたびに流れてしまい、ロシア最大の競技場であるルジニキ・スタジアムを間借りする時代が長く続いた。私自身、スパルタクのホームゲームを2度、現地で取材しているが、会場はいずれも収容8万人を超えるルジニキ。あまりに広すぎて閑散としたスタンドを眺めながら、もったいなあと思うことがしばしばであった。それだけに、スパルタクが適度な大きさのスタジアムを得られたことは、実に感慨深い。

 ところでモスクワといえば、クレムリンやボリショイ劇場など、観光スポットには事欠かない。そんな中、来年のW杯で現地を訪れた際にお勧めしたいのが、モスクワのスタジアム巡りだ。モスクワにはW杯会場のルジニキやスパルタクの他にも、ディナモ・モスクワのディナモ・スタジアム、ロコモティフ・モスクワのロコモティフ・スタジアム、CSKAモスクワのVEBアリーナがある。旧ソ連のスタジアムは、かつてはトラックの付いた旧態依然としたものが主流だったが、近年の経済発展を背景に、球技専用の最新鋭のスタジアムが続々と完成している。気が付けば、モスクワは欧州屈指のフットボールシティーになっていた。試合がない日は内部を見ることはできないが、それでもメトロを乗り継ぎながらのスタジアム巡りは、日本との彼我の差を体感するという意味でも、きっと得るものがあるだろう。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント