パ・リーグが交流戦で勝ち越した3つの要因 攻撃力の差はどこから来るのか?

中島大輔

要因2:指名打者(DH)制度

セ・リーグの打者を攻略し、交流戦で2勝を挙げた西武の十亀 【写真は共同】

 今季交流戦では開幕直後からパ・リーグ勢が白星を積み重ねた一方、終盤になるとセ・リーグが差を縮めた。その一因として考えられるのは、ラスト2カードはセ・リーグの本拠地で行われたことだ。

 ロード(ビジター)での成績を見ると、パ・リーグ勢はソフトバンク(5勝4敗)を除き、いずれも勝ち越せていない。西武は4勝4敗1分で、楽天、オリックス、北海道日本ハムともに4勝5敗、千葉ロッテは2勝7敗だった。

 ファンの声援や慣れた環境で戦える優位性はもちろん、その裏にはDH制の有無がある。一般的にDHに入るのは、たとえ守備力に多少の難があっても打力の際立つ選手だ。デスパイネ(ソフトバンク)、アマダー(楽天)、栗山やメヒア(西武)、ロメロや中島裕之(オリックス)、パラデスや井口資仁(ロッテ)のように打力のある外国人かベテラン打者が起用される傾向が強く、彼らがスタメンで出るか否かでチームの攻撃力が大きく変わってくる。それゆえ、パ・リーグはホームで勝ち越し、ビジターでは黒星が先行した。

 DH制が採用された場合、投手にとっては気の休まる打順が一つ減るばかりでなく、そこに入ってくるのはチームきっての打力を誇るバッターだ。パ・リーグの投手はそうした強打者との対戦を多く重ね、腕が磨かれていくと考えられる。

要因3:真っすぐ狙いが読まれている!?

 6月1日の広島戦で、西武の先発・十亀剣は6回2失点で今季2勝目を挙げた。2回に松山竜平の2ランで先制されて以降、投球内容を変えて強力打線を封じ込めている。3回からシュートを多く投げる配球にしたことがポイントだった。サイドとスリークォーターの間くらいからリリースされるシュートはこの日、パワーシンカーのように球速を落とさないまま三塁方向に逃げながら落ちていた。

「特にセ・リーグのバッターには有効なボールかなと思います」

 十亀の良さを引き出した捕手の岡田雅利が、その理由を説明する。

「バッターが真っすぐのタイミングで待っているところを、ちょっとずらすことができました。ボール先行カウントでシュートを投げたときに、反応するんですけどバットを振り出さない。真っすぐ目掛けて打ってくるバッターが多いので、ボール球には手を出さない、高めには手を出さない、インコースには手を出さないなど、徹底したことをしてくる。そういう傾向がはっきり出てきます」

 1週間後の6月8日の巨人戦では再び十亀が先発し、力強いストレートとカーブの緩急で相手打線を封じ込めた。コンビを組んだ岡田は、「真っすぐを目掛けて振ってくるチームなので、そういう部分でちょっと緩急をつけて、真っすぐで詰まらせてフライを打たせることができました」と振り返った。

 翌日9日の西武対DeNA戦では、ベイスターズ打線は西武の先発・菊池雄星のストレートを積極的に振りにきた。2回に伏兵・田中浩康が149キロのストレートをレフトスタンドに運んで2点を先制すると、1点リードされた9回には売り出し中の宮崎敏郎が増田達至のストレートを振り抜き、レフトに逆転2ランを突き刺している。

 もちろん、この日のベイスターズのように「力対力」で上回ることもあるし、打者とすればストレート待ちは基本だ。その一方、相手の傾向をつかんで西武バッテリーは的確に攻めていた。

好打者の存在で投手のレベルもアップ

 セ・リーグには広島やDeNAのように強く振ることを心がけるチームもあるが、その点において、要因1、2もありパ・リーグは先を走っている。強いスイングがいかに重要かは、今季の楽天打線が立証している。

 そうしたバッターをどうすれば抑えられるかとパ・リーグのバッテリーは思考を巡らせ、強い球や制球力を磨くだけでなく、投球術を高めてきた。

 セ・リーグでも当然、投手と打者がしのぎを削り合う相乗効果はあるが、球場の大きさ、指名打者制が、パ・リーグのスケールの大きな野球につながっているように感じる。

 そうした背景があるからこそ、13年間で12度の勝ち越しという圧倒的な差になっているのだ。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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