「日本人は不利」に抗う競泳スプリンター 塩浦慎理はまた歴史を塗り替えられるか

スポーツナビ
 水泳の世界選手権(以下、世界水泳)が7月14日、ハンガリーのブダペストで開幕する。競泳(23日〜30日開催)の日本代表に選ばれた、全25選手の大会への思い、これまでのストーリーとは。全25回連載の第3回は、男子自由形の塩浦慎理(イトマン東進)を紹介する。

■塩浦慎理を知る3つのポイント
・日本人は「不利」とも言われる自由形短距離で奮闘するスプリンター。
・13年バルセロナ大会の100メートルで、日本人初の準決勝進出。
・ライバルは中村克。4月の日本選手権50メートルでは同着優勝。

日本が苦手とする自由形

日本人には厳しいとされる自由形において、第一人者として世界との距離を縮めてきた塩浦 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 日本競泳界における男子自由形スプリンターの第一人者――。塩浦慎理を形容するにはこの言葉がふさわしい。

 泳法の中で最もスピードが速いクロールは、効率性とパワーが求められる。日本人は外国の選手と比べて手足が短く、身体も小さい。それだけに、世界を舞台に成績を残すことが難しい種目だと言われてきた。

 この傾向は五輪での成績を見てみると一目瞭然。「お家芸」と評される平泳ぎを筆頭に、さまざまな五輪競技の中でも有数のメダル獲得数を誇る日本競泳チーム。しかし男子の自由形においては、1960年ローマ五輪以来メダル獲得から遠ざかっているのだ。特に塩浦が得意とする短距離種目(50メートル、100メートル)は体格の差が顕著に成績として表れやすく、さらに1952年のヘルシンキ五輪までさかのぼってしまう。

 そんな日本人にとって最も「不利」な自由形において、塩浦は世界で可能性を感じさせる泳ぎを見せた。2013年バルセロナにて行われた世界水泳で、100メートル自由形に出場した塩浦は、日本人初となる準決勝進出を決めたのだ。結果は10位と決勝進出は果たせなかったものの、当時の平井伯昌日本代表ヘッドコーチが「記録が出たわけではないけれど、ものすごく評価したい」と語ったほど。「自由形は厳しい」というイメージを払しょくするに十分な活躍だった。

上り調子で世界水泳へ

塩浦は日本選手権、ジャパンオープンなどで好タイムを記録し、世界水泳に向けて手応えをつかんでいるようだ 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 翌年の日本選手権では50メートル自由形の日本記録(21秒88)を樹立。世界記録(20秒91)にはまだ遠く及ばないものの、中村克(イトマン東進)というライバルにも恵まれながら、世界との距離を少しずつ縮めてきた。15年の世界水泳前には武者修行も慣行。単身イタリアへと渡り、スプリントに特化したチーム「ADN Swim Project」で世界の強豪たちに揉まれ、世界基準を肌で感じた。

 今夏の世界水泳に向けて調子は上向いている。昨年の世界短水路選手権では100メートル自由形で自身の持つ日本記録を更新し銀メダルに輝くと、今年4月の日本選手権でもライバル中村と同着ながら50メートル自由形を制した。5月のジャパンオープンもイギリスやオーストラリア選手を抑える48秒82の泳ぎで100メートルを制し、50メートルでは22秒18とベンジャミン・プラウド(イギリス)に次ぐ2位で、中村(3位)にも勝利を収めた。

「ハマったらかなり良いタイムが出そう」

 ジャパンオープン中にこう語っていた塩浦。日本人も自由形で戦える――。そう可能性を感じさせる泳ぎをブダペストで見せてほしい。

(文:澤田和輝/スポーツナビ)
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