日本勢への期待はインフレ気味? これだけ厚い“卓球王国”の壁
世界中に散らばる帰化選手の存在
女子シングルスで中国人選手以外として唯一、準決勝に進出したドイツのハン・イン。彼女も中国からの帰化選手だ 【写真:つのだよしお/アフロ】
それでも、以前に比べれば帰化選手が活躍する場面は減った。国際大会における“中国勢”の上位独占を懸念した国際卓球連盟(ITTF)が2008年9月1日、、同団体が主催する世界選手権とワールドカップに限り、国籍変更選手に対する出場制限を設けたからだ。
21歳以上で国籍変更した選手は出場不可。また、15歳未満で国籍変更した場合は3年間、15歳以上18歳未満は5年間、18歳以上21歳未満は7年間の待機期間が義務付けられている。ただし、選手の生活権を保護する理由で、同じITTF主催でも賞金大会であるワールドツアーへの参加は認められた。
ただ、国際オリンピック委員会(IOC)主催の五輪にはITTFの出場制限が適用されないため、中国の帰化選手も出場が許されている。20年東京五輪では諸外国に散らばる“中国勢”も壁となって日本に立ちはだかる。
近づいては離れる強敵の背中
シニアのデビュー戦でタイトルを手にした16歳の孫穎莎。若手が伸びているのは日本だけではない 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
確かに日本人選手の実力はここ数年で格段に上がり、中でも黄金世代と呼ばれる10代の選手の成長スピードには目を見張るものがある。実際、平野が優勝したアジア選手権でも、中国代表チームの孔令輝監督(編注:現在停職中)が「平野の技術と速さは我々より先を行っている」と評価していた。
だが、ジャパンオープンで目にした孫穎莎や中国の次期エースといわれ、今大会で石川と伊藤を破り3位に入った王曼ユの卓球にも、これまで中国が武器にしてきた打球の回転量とパワー以上に、攻撃の速さが際立っていた。孔監督が称賛した平野の超高速攻撃卓球はすでに中国の若い世代に取り込まれているのだ。
そもそも孫穎莎も王曼ユも、中国が惨敗したアジア選手権後、平野対策に駆り出され、平野のプレーをまねたコピー選手を務めたことを本人たちが認めている。つまりそれは、時間をかけて確立してきた平野のプレーを短時間で、ある程度まねできる能力を持っているということ。
そして、この二人が日本の記者たちに「中国での同世代の競争はとても厳しい」と口を揃えて語ったように、中国には彼女たち以外にもズバ抜けた才能がごまんといる。20年東京五輪で悲願の金メダルを狙う卓球日本は、金太郎飴のように次から次へと出てくる強敵に打ち勝っていかなければならない。
20日にはまた、ワールドツアー中国オープンが四川省の成都市で開幕する。母国開催とあって中国人選手がこぞって出場する中、日本からも張本や石川、平野、伊藤ら世界選手権組が出場する。連戦に次ぐ連戦というタイトなスケジュールではあるが、ジャパンオープンでの敗因を一つでも中国オープンに生かし朗報を届けてほしい。