“メンドーサライン”を下回るイチロー、昨年までとは異なる外野4番手の立場

丹羽政善

現地時間11日のパイレーツ戦で今季第2号本塁打を放ったイチローだが、打率はまだ“メンドーサライン”を下回っている 【Getty Images】

 1979年5月初めのこと。マリオ・メンドーサはマリナーズに移籍して初めてレギュラーを獲得したが、開幕から1カ月が過ぎても打率2割前後を行ったり来たり。するとチームメートのトム・パチョレック(大洋、阪神でプレーしたジム・パチョッレックの兄)とブルース・ボクテの二人が、彼の低打率を「メンドーサライン」と呼んで、揶揄(やゆ)した。

 その時点ではまだ、身内のジョークだったようだが、2010年にメンドーサ本人がセントルイスの『ポスト・ディスパッチ』紙の取材に語ったところによると、翌年、パチョレックらが、開幕から打率の上がらなかったロイヤルズのジョージ・ブレット(現ロイヤルズ球団副社長)のことを、「そんなことじゃ、メンドーサラインを下回るぞ」とからかい、その後ブレットが、「日曜日の新聞でまず確認するのは、誰がメンドーサラインを下回っているかだ」と取材で話したことで、一気にその言葉が有名になったという。

 以来、大リーグでは、例えば打率が下がり2割に迫ってくると、「メンドーサラインに近づいている」などと表現することが一般的となったわけだが、なんと今、そのメンドーサラインにイチローがおり、『マイアミ・ヘラルド』紙も先日、イチローの記事の中でメンドーサラインに触れていた。11日(現地時間)の試合では、8回に今季2本目の本塁打を放ったイチローだが、その試合終了時点で打率は1割9分8厘と低迷。これでも上がった方で、5月は1割5〜6分だった。

 もちろんまだ打数は81にとどまり、仮に次の試合で5打数5安打なら、打率が一気に2割4分4厘に跳ね上がるわけだが、そもそも、その十分な打席数がなく、試合前の準備、試合の入り方、打撃のリズム、体力等々、難しいアジャストを迫られ、結果が出ないまま開幕2カ月が過ぎた。昨年は、あと44本で日米通算ながらピート・ローズ氏の大リーグ通算最多安打記録を超える、という状況で開幕し、6月15日に記録更新を成し遂げたが、今季はここまでわずか16安打である。

外野3選手ともそろって好調

 ただ、実のところ外野の控えという立場そのものは過去2年と変わらない。

 2年前、89試合でスタメンに名を連ねたのは、クリスチャン・イエリチ、ジャンカルロ・スタントンの故障、マルセル・オズナのマイナー落ちという想定外のことが続いたからだ。昨年、62試合にスタメン出場したのも、スタントンの故障、不振などが理由だった。言ってみれば、今年こそが想定された起用ともいえる。

 とはいえ、今年のスタメン出場がここまでわずか8試合とは……。

 事情は、過去2年と対照的だ。イエリチ、オズナ、スタントンが本来の活躍を見せ、今年は故障もほとんどない。10日、スタントンが1打席目に右手首に死球を受けた。そのまま下がるとイチローが代走として出場し、スタントンは11日もスタメンから外れたものの大事には至らず、その試合で代打に立っている。

 開幕前、仮に3人の状態が良くても、1週間に一度ぐらいは誰かが休養し、イチローがスタメン出場するのでは、とも見られていたが、8試合のスタメンのうち5試合がア・リーグの本拠地で行われた交流戦。誰も休まない。

 休ませられなかった、という背景もある。

 3人そろって調子が良い。一方でチームは6月こそ勝ち越しているが、5月は10勝18敗と大きく負け越し、厳しい戦いが続いた。マーティン・プラード、アデイニー・エチャバリアらレギュラーに故障が相次ぐ中、スタントンらを休ませる余裕などなかった。

1/2ページ

著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント