U−20W杯で浮き彫りになったトレンド 3つの「新ルール」が与えた影響とは?

川端暁彦

ビデオ判定の導入がもたらす効果

南アフリカ戦での小川のゴールが認められるなど、ビデオ判定での影響は随所に出ていた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 もっとも、今大会は「心身のタフネスをもってイングランドが初めてU−20年代の世界を制した大会」としては記憶されないかもしれない。なぜなら、いくつかの新ルールが本格的にFIFA(国際サッカー連盟)の国際大会に導入され、試行された大会として歴史の中で語られる可能性が高いからだ。

 1つは昨年12月のクラブW杯にて、大いに耳目を集めたビデオアシスタントレフェリー、いわゆるビデオ判定の本格導入だ。試合数の少なかったクラブW杯とは異なり、さまざまなスタジアム、環境下で一斉一律に行われた今大会は、貴重なテストケースとなった。

 ゴール判定やPK、レッドカードなどの試合結果を直接的に左右する判定について、ビデオアシスタントレフェリーが主審にアドバイスを送るというシステムだが、実際にいくつかの判定が覆ることとなった。日本の試合でも、南アフリカ戦でのFW小川航基(ジュビロ磐田)のゴールがラインを割っていたとして認められるなど影響が出ていたが、そのほかにもペナルティーエリア内での接触について、ビデオ判定を待った主審がゴールキックを制止する場面があるなど、試合進行中に判定をドキドキしながら待つという、これまでのサッカーではなかった場面も生まれている。どうしてもビデオ判定が入ることで、試合の流れが切れるのは否めず、ネガティブに言えば、ここが最大のネックだろう。

 ただ、ポジティブな影響も大きかった。

 エリア内でのシミュレーションプレー(いわゆるダイブ)が減ったように感じられたが、これはDF側が反則を取られる恐れのあるディフェンスをしづらくなったこととワンセットだろう。また、微妙な判定が下ったときに選手やベンチのストレスが軽減されたこともポジティブな要素だ。「あれ、絶対に入っていたよね?」という抗議に対し、主審が「いや、ビデオで確認してもらったけれど、入っていなかったよ」と言えるのは地味に大きく、執拗な抗議で長く試合が中断するようなことはなくなった。

 国と国との戦いだから、どちらもエキサイトするのは当然だが、その感情を「ビデオ判定で確認したから」と沈められるのは大きい。レフェリー側も「決定的な誤審をしてしまったかも」、あるいは「してしまうかも」と思うのは心理的に大きな負担だったのだから、彼らにとってもポジティブな要素だろう。主審の権威がなくなることを危惧(きぐ)する声もあるが、むしろ自信を持って権威を示しやすくなるように感じられた。

4人目の選手交代と「ABBA方式」のPK戦

さまざまな試行の中で現代サッカーのトレンドが浮き彫りになった今大会は日本サッカーにとっても学びの多い日々だった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 延長戦で4人目の選手交代が追加されるルールも導入されているが、こちらの影響も地味にあった。「3人目の交代カードが切りやすい」というのは多くの監督が指摘するところで、延長戦でアクシデントが起こる可能性を考えて切れなかった交代カードを、後半のうちに切れるようになる効用はあっただろう。日本でも育成年代の大会は交代枠自体を多くしていることが多いが、延長時の枠増加についても早々に導入していいのではないかと思う。

 また今大会では「ABBA方式」と呼ばれる新たなPK戦も話題を呼んだ。心理的プレッシャーのかかる後攻のほうが失敗しやすく、「先攻有利」が統計的にも明らかだった従来の交互に蹴り合うPK戦のルールを改め、「Aチームの1番手→Bチームの1番手→Bチームの2番手→Aチームの2番手→Aチームの3番手→Bチームの3番手→Bチームの4番手→Aチームの……」という具合にジグザグに蹴らせる方式である。

 必ずしも分かりやすくはないので、日本国内で実施する場合は電光掲示板の表示などは工夫する必要がありそうだし、それがない会場では少し混乱するかもしれない。どうやら技術的にはGKが2連続でセーブする機会があるというところがポイントで、セーブに成功して乗っている雰囲気のGKを前に、同じチームのキッカーが連続で蹴るというところが勝負の分かれ目になりそうだった。つまり、Bチームの2番手やAチームの3番手キッカーが重要と言い換えることもできるわけで、PK戦のセオリーも新しく見直されていくことになるかもしれない。

 3週間超にわたった20歳以下の世界の祭典、U−20W杯。さまざまな試行の中で現代サッカーのトレンドが浮き彫りになり、準優勝したベネズエラはもちろん、個性を見せた米国やニュージーランドなど、地道な強化を積み上げる各国の戦いぶりも印象的だった。日本サッカーにとっても学びの多い日々だったのは間違いない。

 この大会に継続参加する重要性はあらためて痛感できただけに、2年後の大会を目指す現・U−18日本代表の奮起を祈りつつ、7月からリスタートを切る東京五輪を目指すチームにも、あらためて期待をしたところで、まだまだ大会について書きたいことはあるのだが、ひとまず筆を置きたい。この大会の続きは、そう遠くないうちに、「大人のW杯」で見ることができるだろう。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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