山崎直之、シーズン終盤に見せた復活劇 オランダ2部での紆余曲折の半年間

中田徹

シーズンを終えたばかりの山崎に、紆余曲折の半年間について語ってもらった 【中田徹】

 3月13日(現地時間)のエメン戦でオランダ初ゴールを決めると、山崎直之はゴールへ直結するプレーをものにし、3ゴール1アシストを記録してオランダでの1年目のシーズンを終了した。

 2016年9月、オランダ2部リーグのテルスターと契約した山崎は東京学芸大学卒業後、紆余(うよ)曲折を経て、25歳にしてプロサッカー選手になった。その技術はすぐにチームから認められ、11月4日のMVVマーストリヒト戦まで、ずっとレギュラーとして起用され続けていた。

 一方で、秋に入ると疲労蓄積の傾向が表れ始めた。それも無理はないだろう。一見、オランダでも難なくプレーしているように見えた山崎だったが、やはり東京都リーグからのステップアップに加えて、異国の地で生活するという環境の変化は、彼の心身に負荷を与えていた。

 オランダでは「休養もトレーニング」とよく言われる。テルスターの首脳陣は、「今年最後のヨング・ユトレヒト戦(12月19日)はもう出なくていいから、早く日本に帰ってリフレッシュしてこい」と、山崎に早めのウインターブレークをくれた。

 年が明けてオランダに戻ってくると、山崎はレギュラーの座を失ってしまった。1月から2月にかけてテルスターは8試合を戦ったが、山崎の出場機会はたった3試合。全て途中出場だった。だが、この2カ月間で、山崎は“守備”“スプリント力”“オフ・ザ・ボールの動き”を向上させ、シーズン終盤の復活劇につなげていく。

 この半年をシーズンを終えたばかりの山崎に語ってもらった。

レギュラーを失い、ディフェンスの意識に変化が

レギュラーを失った山崎は「ディフェンスの意識を変えた」という 【Getty Images】

――昨年末にはヨング・ユトレヒト戦があったにもかかわらず、首脳陣の好意で日本へ帰り、コンディションを整えてオランダに戻ってきたら、年明けから試合に出られなくなりました。

 今季の前半戦は、試合に使ってもらっていました。監督が休養をくれて、日本では「赤ちゃん体操」をしながらコンディションを整えて、リフレッシュしました。後半戦は万全の状態で使ってもらえるだろうと思っていたんですが、なかなか試合に出られませんでした。自分でもちょっと驚きました。

 一度、監督から個人的に呼ばれて「負けが込んでいるから、どうしても勝ちたい。日本人のお前とオランダ人の選手、どちらかを起用するとなったら、重要な試合ではオランダ人選手を使いたい」と言われました。

――すごいことを言われましたね。

 そうなんです。「お前に指示を出すときは(オランダ語を)英語にしなければいけない。それがタイムラグとして出てしまう。重要な試合では、それが出ないことも大事になってくるから、今はちょっと使えないんだ」と説明されました。僕はアジア人ですから仕方ない部分もあるんですが、「そうか……」と思いました。ただ、そこを埋めるにはサッカーで見せるしかないと思って、いろいろと自分自身を変えました。

――何を変えたんですか?

 ディフェンスの意識を変えました。それまで守備で「もっといけ」と言われることがあったので、「お前、どうしたんだ!?」と言われるくらい練習からガツガツいったんです。削ってもいいから、ボールを取ってやろうという気持ちになりました。次の日から、監督とチームメートの僕への見方がちょっと変わりました。「お前、今日もいけよ!」って(笑)。

 あとは、赤ちゃんトレーニングのやり方をちょっと変えてみたりして、だんだん調子が上がっていった。そういう積み重ねで、だんだんと信頼を取り戻していきました。

「踏み込む意識」で行った赤ちゃんトレーニング

――赤ちゃんトレーニングは、どう変えたのでしょうか?

 トレーニングメニューに、「赤ちゃんが自然に立ち上がっていくトレーニング」というのがあるんです。それを「踏み込む意識」でやることで、それをサッカーにつなげていきました。それまで、最初の一歩目の出だしが、「地面を蹴ってしまっている」という意識がありました。地面を蹴ると、どうしても力が後ろに行ってバランスが崩れてしまい、それをもう一度建て直して進むので、少し出遅れてしまっていたんです。

 ですが、「地面を踏み込む」というイメージにすると、地面の力が体に伝わって、それを利用して前に進むことができるので、自然とスピードに乗れた。それでスプリントの回数が増えました。地面を蹴っていた時は、動き出しがぎこちないから「スプリントが嫌だな」という感情になっていました。しかし、地面を踏む感覚にしたら、嫌な気持ちがなくなり、「あ、スピードに乗れているな」という気持ちの良い感覚になりました。

 僕はそれから、裏へ抜ける動きが増えました。ゴールへ直結するプレー、ゴールに直結する走りをしたいと思ってきた。「これだけ走れるんだったら、ゴールに直結させて走れば効果的だし、これは使えるな」と思いました。
 
――2月26日には白井裕之さん(オランダ代表U−13、U−14、U−15カテゴリーの専属アナリスト)と一緒にアヤックスvs.ヘラクレスを見たそうですね。

 アヤックスの試合を見て刺激を受けましたし、白井さんは「オフ・ザ・ボールの動きをもう少し増やしたらゴールが増えるんじゃないか」と裏に抜ける動き方を細かく説明してくれました。単純だったんですけれど、僕も気付いてない動き方を教えてくれました。ちょっと意識が変わるだけでゴールを取れたので、白井さんには感謝しかないです。いろんなことが重なって、良い方向に進んでいくことができました。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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