マニー・ラミレスが高知にもたらしたもの 観客増に知名度アップ、少しのジレンマも

阿佐智

高知ファイティングドッグスに加入したマニー・ラミレスはチームに大きなものを残した 【阿佐智】

「はじめ聞いたときはもちろん信じませんでしたよ。あのマニーがここに来るなんてね。でも、本当にやって来ると聞いて、忙しくてずっと野球なんか見ていなかったけれど、久しぶりにスタジアムに足を運びました」

 5月28日の高知市営球場、四国アイランドリーグplusの前期最終戦となる高知ファイティングドッグスvs.徳島インディゴソックス。大きな声で声援を送っていた青い瞳の男の子の父親に声を掛けると、来日8年になるその米国人男性はこのように答えてくれた。現在日本人女性と家庭を築き、高知に住んでいる彼は、故郷ボストンの英雄マニー・ラミレスを目に焼き付けようとこの夜も球場にやって来た。不入りに悩む独立リーグの田舎球団で急増した観客の多くは、彼と同じような動機で球場に足を運ぶようになったのだろう。

契約延長ならジレンマも

 この春、高知は「マニー・バブル」を迎えていた。

「収支はシーズン終了後に出すので、今は正確な数字が分からないですけど、増収は間違いないですね」

 こう言うのは、ファイティングドッグスの北古味鈴太郎オーナーだ。消滅の危機に陥っていた赤字球団を2007年に引き受け、農業部門の創設、県内各地での地元自治体や企業による買い取り興行試合の実施など、奇抜なアイデアで不入り球団を黒字化したアイデアマンも、メジャーのレジェンドの入団による経済効果には舌を巻く。観客動員への正の影響は、元日本人メジャーリーガー、伊良部秀輝氏や藤川球児以上のものだと地元記者も認める。チケット収入の増加だけでなく、関連グッズの売れ行きも上々であることは、マニーの背番号「99」が縫い込まれたユニホームをスタンドのあちらこちらで目にすることができることからもわかる。

 2カ月の前期シーズンだけとは言え、多くのファンがマニー目当てに球場に足を運び、たくさんのカネを球団に落としていった。しかし、これを球団は手放しで喜んでいるわけではない。

「高知の人たちのお金がドミニカに流れていくという面もありますから」

 北古味オーナーは、後期シーズンに向けての契約延長話が進んでいることは否定しないながらも、仮に契約延長となったとしても、そのことが、決してプラス面ばかりではないという表情を見せた。

「うちもいくらでも払えるわけでもないですから」

 メジャーのレジェンドとはいえ、リーグの規定もあり、報酬はリーグの上限である月40万円を超えることはないだろう。しかし、彼のために用意した高級ホテルなどの経費は、かなりの額になることは間違いない。それに、おそらくはグッズなどの売り上げに関しては、球団が独占するわけではなく、マニー側にも入るようになっているはずだ。地域密着をポリシーとする球団とすれば、地元に還元されない富が球団の活動によって生じることが、果たして高知のためになるのかどうかというジレンマを感じてしまうのも致し方ない。

 それに、と北古味は続ける。

「彼がいることによって(出場)枠がひとつ埋まりますから。独立リーグは本来若い選手の育成のためにあります。だから契約期間を7月31日(NPBの外国人獲得の最終期限)までにしたんです。彼が今年中にNPBに行く可能性がなくなった場合、彼のために若い選手の出場機会を奪ってしまうことが果たしていいのかどうか……」

 オーナーは、マニーの入団は喜びながらも、それを、諸手(もろて)を挙げて受け入れているわけでもなさそうだった。今後の大物獲得についても、「二匹目のドジョウは狙わない」と明言する。

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著者プロフィール

世界180カ国を巡ったライター。野球も世界15カ国で取材。その豊富な経験を生かして『ベースボールマガジン』、『週刊ベースボール』(以上ベースボールマガジン社)、『読む野球』(主婦の友社)などに寄稿している。

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