U−20W杯で得た世界基準のものさし 日本守備陣に突き付けられたベースの違い

平野貴也

世界の舞台で削り取られた体力

4試合にフル出場した冨安(左)は、Jリーグでの戦い以上に疲労していたことを明かす 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

「日本とは違う」部分が多ければ、舞台に慣れるために時間を消費しなければならない。国内とは異なる力を感じていたことは、先述の舩木を含め、選手の言葉から明らかだった。世界のスピードに対応するため、普段にはない集中力が求められ、跳躍も力強くなければならない。意識を集中させられてラインが乱れただけでなく、体力も削り取られた。冨安は初戦の後で「いつもより疲れている。Jリーグとは全然、比にならないくらい疲れがきている」と話し、最後のベネズエラ戦後には杉岡も「(初めて出場した)イタリア戦の後とかは筋肉痛もきましたし、そういう意味では本当に強度が高い試合だと思います」と認めた。体力を削がれれば、運動量もプレーの精度も積極性も落ちる。

 守備面だけにとどまらない全体の話になるが「世界レベルで3試合を戦ったら限界、組織力で守備を重視して接戦に持ち込むのが限界」なのが、日本で育成された選手のベースだと突き付けられたのだ。もちろん、世界と戦う際の課題として「フィジカル」は以前から常に存在している。体のサイズやトップスピードに関しては、なかなか差を埋め難いところもある。だから、日本は組織力での対抗を目指し、それを発揮できれば世界でも善戦できることは証明した。

選手が感じた世界への対抗策

左SBの舟木(左)は「スプリントした中での精度」を改善点に挙げた 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 しかし、その先に行きたい。頼もしいことに、今大会で世界の基準を感じた選手たちは、絶望などしていない。むしろ、対抗策が見えてきた楽しさを感じている部分もあった。

 初戦の後、舩木は「ルヴァンカップに出させてもらったときにユースとプレーの強度が違ったけれど、ここでは(さらに)前半から飛ばさなければいけなくて、後半は体力を消耗した。スタミナは誰にも負けない自信があったけれど、もっと高強度の中でスプリントの本数を増やして、スプリントの中で精度を上げていかないといけない」と改善のイメージを語っていた。

 圧倒的な身体能力を誇る相手を止める喜びを感じたという杉岡も「やっぱり、もっと運動量が必要。自分がサイドを制圧するぐらいになって、攻守に本当にアグレッシブにやれるようにしていきたい。本当に経験したい物が得られたし、世界とのレベルの差を感じることができた。ポジショニングとかスピードとか、日本だからOKではなく、1つ1つやっていかないといけない」とベースアップを課題に挙げた。トップスピードで勝てないのなら、平均速度を上げて振り回してやろうというくらいの気概が感じられた。

課題は「厳しいプレッシャーの中での的確な判断」

3年後の東京五輪では、世界のスピードを堂々と受けて立つ日本を見たい 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 たとえスピードで上回らなくても、相手の速さに驚かず、積極的なラインコントロールを最初からできていたら、どうだっただろうか。技術や戦術が武器で、フィジカルが課題という構造自体は変わらないかもしれないが、苦手分野でも対抗し得る自信を持てれば、きっと日本の良さを勝利につなげることができる。

 守備のリーダーとして貢献した中山雄太の「自分たちのサッカーができていないときに結果が出ていない。できない状況で結果を出せる力が勝負を決めるのかなと思う。できない状況でも点が取れるとか、そういうところがないのかなと思う」という言葉は核心を突いている。先手を奪われても、相手の力が強くても、それならばと冷静かつ的確に判断できる対応力を持つためには、苦手意識を突かれて面食らっていてはいけない。

 内山監督は、今後の日本の課題として「厳しいプレッシャーの中での的確な判断」を挙げた。世界基準を持ち帰り、普段の強度を上げて差を埋められるか。3年後の東京五輪では、世界のスピードを堂々と受けて立つ日本を見たい。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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