U−20W杯で得た世界基準のものさし 日本守備陣に突き付けられたベースの違い

平野貴也

アジアと世界の違いを痛感

アジアでは6試合無失点だった日本がU−20W杯では4試合6失点。世界のスピードにとまどった 【写真は共同】

 左のコーナーから高く描かれた放物線は、ベネズエラのMFヤンヘル・エレーラの頭に当たり、低く軌道を変えてゴールに飛び込んだ。延長後半3分、韓国の大田ワールドカップ(W杯)スタジアムに響いた歓声は、満身創痍(そうい)で戦っていた日本にとっては絶望そのものだった。5大会ぶりにU−20W杯に出場した若き日本代表の挑戦は、決勝トーナメントのラウンド16でベネズエラに0−1で敗れて幕を閉じた。

 長く10年も遠ざかっていた世界の舞台に立った日本が、アジアと世界の違いを痛感し、短いながらも濃密な時間の中で、必死に距離を縮めた大会だった。特に、世界のスピードに面食らって崩れることの多かった守備陣は、ベネズエラ戦で驚異的な改善を示していただけに、もう1試合、もう2試合の経験ができれば、どれだけ価値があったかと思った。しかし、同時に、最初からできていなければならない、ベースが違うのだと突き付けられたような気がした。

 元々、日本は選手間の距離をコンパクトにして密集地帯でボールを奪い、ボールを動かしながら敵陣に迫るスタイルのチームだった。昨年、この大会の予選に当たるU−19アジア選手権を初優勝した際は、全6試合で無失点を貫いた。ところが、1勝1分け1敗で3位となったグループリーグでは、3試合で5失点を喫した。特に目立ったのが、最終ラインの乱れだ。初戦の南アフリカ戦(2−1)は、右サイドバック(SB)初瀬亮が残った最終ラインの裏を浮き球で抜け出されて失点。2戦目のウルグアイ戦(2−0)も左SB舩木翔がロングパス一発で背後を取られて先に点を失った。3戦目(2−2)は左SB杉岡大暉が残ったラインの裏を突かれた形だった。

サイドが下がり、チーム戦術と齟齬が生まれた

桁違いの速さを持つ選手に対し、サイドの選手が引き気味に守る。そのため、チーム戦術と齟齬が生まれた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 守備が乱れた要因は、選手たちがアジアとは異なる「個の力」を感じたことが挙げられる。特に、スピードの圧倒的な違いは、随所で見せつけられた。南アフリカ戦で失点以外にも高速アタックを受けて苦しんだ舩木は「付いて行こうと思っても、気付いたらけっこう行ってしまっていた。映像を見て速いのは分かっていたけれど、今までの(アジア選手権で対戦した)サウジアラビアとかとは違う、桁違いの速さ」と目を丸くしていた。

 初速、加速力に加え、跳躍力や当たりの強さもある相手と対峙(たいじ)するうちに、特にサイドの選手が引き気味に守る意識を持ち始めることは自然だった。センターバックの冨安健洋は、決勝トーナメントの前に「速いサイドアタッカーが毎試合いる。その中でちょっと気になって下がってしまう気持ちは分かる。でも、ラインを上げさせないといけない」とラインを統率する必要性を強調する中でも、サイドの選手の心理には理解を示していた。

 しかし、サイドに下がる意識が生まれたことで、基本的に高いラインを設定して全体をコンパクトにした状態でボールを奪うチームの戦術と齟齬(そご)が生まれた。内山篤監督は、ベネズエラ戦を終えて「基本的なことなのですが、非常にスピードのある選手を恐れてしまい、(相手の)バックパスから積極的にラインをコントロールして相手のFWをリアクションに持っていくという作業が少し遅れていました。そのギャップの中を動かれてしまった。そこはより積極的にしっかりラインコントロールしていこうということで、意識高くやってくれたと思っています」と修正の手応えを語った。世界のスピードに慣れるまでに3試合もかかったというのが、久々に世界に出た日本の現実だった。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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