小林誠司は「古田敦也」になる必要はない 堀内恒夫氏が期待する巨人正捕手の成長

週刊ベースボールONLINE

バント失敗は見過ごせない

調子の悪い投手をリードすることも小林に期待されている役割のひとつ 【写真=小山真司】

 あのミラクルぶりはどこへ行ってしまったのか。巨人・小林誠司が開幕から極度の打撃不振に陥っている。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で「ラッキーボーイ」「神ってる男」など形容されたバッティングは影を潜め、また昨年までの8番打者に逆戻りしてしまった。「今年の小林はひと味違う」と期待していたファンにとっては「看板に偽りあり」の思いかもしれない。

 しかし、振り返ってよく考えてもらいたい。バッターとしての小林は、もともと打てる打者ではない。WBCでもホームランを打ったのは力がやや落ちると言われる中国の投手だったし、ボテボテの当たりが内野安打になったりしていた。勝負を決めるような一打は打っていないし、表現は悪いが試合の間隙(かんげき)を突いたヒットが多かったというのが正直な印象だ。つまり、バッティングが劇的に変化したり、技術的に進化したりしたわけではなかったと思う。

 捕手で8番打者。打てないのは仕方がない。しかし、開幕から再三失敗している送りバントについては、見過ごすわけにはいかない。打てない打者が最低限やらなければいけないのは、バントを成功させて走者を先の塁に進めることだ。同じ打席で2球もバントを空振りした。あんなシーンは初めて見た。今の野球は極端な守りのフォーメーションを取ってくるから、バントを成功させることは難しくなってはいるが、打球を殺してさえやれば(簡単なように言うが、実はこれが最も難しいのだが……)、内野手がどんなに前進してきてもバントは成功するものだ。

 バントのサインが出ると予想される場面で打席に向かう小林の表情を観察していると、どこかおどおどしているように見える。1度失敗すると、次にサインが出たときに「失敗したらどうしようか」という後ろ向きな考えが頭をよぎるのだろう。そして、失敗が続くと、さらに恐怖心が募ってくる。“バントイップス”。小林の心境はそんなところかもしれない。

求められるのは投手からの信頼感

 バッティングがやり玉に挙げられているが、小林に求められるのはそれだけではないと思う。リード、キャッチングを含め、投手から受ける捕手としての信頼感だ。菅野智之のように自分で考えながら投げられる投手はいいが、調子の悪い投手をリードするという意味では、小林はまだ学ばなければいけない部分があるのではないか。ワンバウンドした投球を簡単に後ろへやるシーンも目につく。投手の失敗をカバーする。不調で3回しか持たない投手を5回まで引っ張っていく。これが「いい捕手」なのである。

 小林も、もうある程度自分の形を作っていかなければならない立場の選手ではないか。そのための勉強をしてもらいたい。今、必死になってやれば、あと5年は持つ。もし、小林に成長が見られないとなると、球団は新たに捕手を補強ポイントにして編成を考えなければならなくなる。せっかくドラフト1位で取った捕手が額面どおりに伸びてくれないと、それだけチームの補強も遅れることになる。

 小林は「野村克也」になる必要はない。「古田敦也」になる必要もない。「阿部慎之助」にもならなくていい。打てて守れる彼らは特別な存在だ。せめて、確実にバントができ、捕手として投手の信頼を得る立ち居振る舞いをしてほしい。彼に望むのはそれだけだ。
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