MLBでプレーする二人の日系人捕手 ヒガシオカとスズキが示す勝利への献身

杉浦大介

田中将大と試合を見守るカイル・ヒガシオカ(右) 【写真は共同】

 田中将大のチームメートになったヒガシオカ――。そんな名前を聞けば、ヤンキースには田中以外にも日本人選手がいると思うかもしれない。

 精悍(せいかん)な顔つき、礼儀正しい態度もジャパニーズそのもの。しかし、4月20日に27歳になったばかりの控え捕手は日本語を流暢に話すわけではない。本名カイル・H・ヒガシオカはカリフォルニア生まれの日系4世。2008年ドラフト7巡目でヤンキースに入団し、マイナーで育ったアメリカ人選手である。

「メジャーリーグライフは最高だね。これまでに想像していた以上。もっと勉強して、もっと出場機会を得られるようになりたいと思う」

 そう目を輝かせるヒガシオカは、正捕手ゲーリー・サンチェスの故障離脱に伴い、4月8日(現地時間)にメジャー初昇格を果たした。12日のレイズ戦では初スタメンを飾るなど、控え捕手としてこれまでに7試合に出場。以前からプロスペクトとして名前を紹介されてきた守備型捕手は、ようやくメジャーの舞台で存在感を発揮し始めている。

「タナカさんは助けてくれる」

 その興味深いバックグラウンドもあって、メディアに取り上げられる機会も少なくない。春季キャンプ中には、“田中や将来ヤンキースに来る日本人投手と意思の疎通を図るため、日本語を習得中”と騒がれた。

 クラブハウスで日本メディアを見かけると、「コンニチワ」と自ら挨拶してくることも。もっとも、本人にじっくり話を聞くと、現在は新たに外国語を学ぶ難しさを実感している最中なのだという。

「タナカさん、シンゴさん(田中の通訳である堀江慎吾氏)と可能な限り日本語で言葉を交わすようにしている。しかし、日本語を身につけるのは簡単ではないね。2つの言語にはかなり違いがあるから、直訳したら意味が通らなくなる。例えば英語とスペイン語は単語の発音、文法も似ているものが多いけど、日本語はそうではないからね……」

 真剣に英語を勉強したことのある人なら、“直訳しただけでは意味が通らない”というヒガシオカの正直な言葉に納得するだろう。ハードなメジャーリーグのスケジュールの中で、外国語の勉強まで進めるのは簡単なことではあるまい。

「タナカさんは、知らない言葉を教えてくれたりして助けてくれる。僕はまだまだ単語を使うのが精一杯。まずは単語を覚えて、その後にやっと文にできるようになる。先は長いね(苦笑)」

守備が良く、研究熱心な捕手は貴重

 ただ、もともと父親から日本語取得を勧められていたというヒガシオカは、「好きな日本食は親子丼!」と即答するなど、4世ながら日本文化への愛着は持っている様子。田中とも心を通わせているようで、だとすれば徐々にでも言葉は身についていくのではないだろうか。

「投手とうまくコミュニケーションをとり、良いディフェンスを発揮していきたい。もちろん打撃でも多くのヒットを打って、貢献できるようになりたい。僕の仕事は出来る限りチームに貢献し、勝利の助けになることだ」

 そう目標を語るヒガシオカにとって、今回のメジャー生活は長いものにはならないかもしれない。上腕二頭筋を痛めたサンチェスは間もなくリハビリを開始。今週末の復帰もあり得る。そうなればヒガシオカはマイナー行きが濃厚で、メジャーの舞台での田中との日本人&日系人バッテリー実現はしばらく先か。

 しかし、守備が良く、研究熱心なキャッチャーはメジャーでも存在価値があるもの。笑顔のさわやかな好漢ヒガシオカも、徐々に力をつけ、複数の言葉を学び、例え控えでも長いキャリアを築いていく可能性も十分にありそうだ。

 そんなヒガシオカにとって1つの模範になりそうなのが、一足先に堅実なキャリアを歩んできたベテラン日系人捕手、カート・スズキだ。2人の間にはまだ交流はないというが、そのスタイルには共通点があるように思える。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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