谷繁元信氏が語る捕手の神髄 投手をリードする9のポイント

週刊ベースボールONLINE

テーマ4:捕手に必要な“力”とは?

捕手には観察力、洞察力、判断力、決断力、記憶力などあらゆる“力”が必要 【写真:BBM】

「1試合の配球はすべて覚える」

 観察力、洞察力、判断力、決断力、記憶力。あらゆる“力”が必要です。リードにおいて、打者を観察して、そこから得たことを洞察して、球種を判断して、決断してサインを出す。迷っている暇はありません。そして、配球は1試合、すべて覚えないといけないから記憶力も重要です。

 野村克也さんは「捕手は試合前の『想像野球』、本番の『実戦野球』、試合後の『反省野球』の1日3試合やるべきだ」とおっしゃっているようですが、まさにそのとおり。僕はよく試合後に最初の打者からのチャートを伏せて、「1番だれだれの初球はこう、2球目はこう」と、“答え合わせ”をしていました。

 それを続けていると、ここというときにリードが頭に浮かんでくるんです。同じシチュエーションはなかなかないですけど、似たような場面はありますから。根拠のあるリードができるようになるんですよね。

テーマ5:試合前のシミュレーションは?

「ダメなのは思い込みのリード」

 ある程度はシミュレーションしますけど、試合ではそればかりに執着することはありません。僕も若いころは、試合前に考えたことだけを実践しようしていました。でも、それだと相手が見えない、投手が見えない、周りが見えない、独りよがりのリードになってしまう。ある程度、想定したことを軸にして、その場で感じたことをしっかり頭の中で処理して、整理してサインを出せるかのほうが大事でしょう。

 投手のいいところを引き出す「投手主体」、打者の弱点を突く「打者主体」、ゲッツーを取るなどの状況に応じた「状況主体」のリードがあり、それらを使い分けていくものですが、一番やってはいけないのは自分の思い込みだけのリード。特に経験の浅い捕手はそれをやってしまいがちなので、気を付けたほうがいいでしょう。

テーマ6:リードに正解はあるのか?

4月13日の巨人・カミネロは初球のストレートを狙い打たれ同点弾を喫した 【写真:BBM】

「抑える確率が高い球を選択するだけ」

 抑えれば正解かもしれませんが、それがすべてではない。ただ、リードに“これをやってはいけない”という間違いはあります。

 今季の例では4月13日の巨人対広島(東京ドーム)。巨人1点リードで迎えた9回、巨人守護神のカミネロがマウンドに上がり、打席には代打の松山竜平が立ちました。カミネロの得意球はストレートで、この場面、松山が狙っているのもそれでしょう。だから、その狙いを外せばいいんです。それがリードなのですから。

 だけど、捕手の小林誠司は初球、まともにストレートを要求して、いきなり同点弾をライトスタンドに運ばれてしまった。これが勝負の過程で、真っすぐのタイミングの取り方ではない、真っすぐに差し込まれているというのが見えていればストレートでも間違いではない。結果的にそれが甘くなって、打たれたというのは仕方のないことです。

 たぶん、試合後に小林に聞くと、それは分かっていると思うんですよ。でも、マスクを被っていると判断を誤る。常に冷静になって、抑える確率が高い球を選択しなければいけませんし、間違ったリードをしないようにしないと信頼される捕手にはなれません。

テーマ7:2ストライクから1球外すのは正解?

「ただボールにするのは意味がない」

 勝負に行けると思ったら勝負に行けばいいし、ただ単に様子を見るためにボールにするのは意味ない。とにかくリードには根拠が必要です。例えばランナーなしで、初球をストライクからボールになる変化球で空振り。続いて、ストレートを見逃しで2ストライク。こういう追い込まれ方はバッター心理で言うと、「やられた!」という感じなんです。どちらで勝負してくるだろうという迷いが生じる。そういったときに1球、ボールを挟むと、バッターに余裕ができてしまう。

 で、あるならば、例えば3球目に外角低めの真っすぐで三振を取りにいく。ボールになったとしても、バッターは「危なかった」と焦るんです。それが読み取れたら、同じところにスライダーを投じたら食いついてくるだろうと考えられる。こういうことが、根拠のあるリードなんです。

 ある程度、実績を積んできたら、バッターが投手ではなくて、僕を意識してくれるようになった。ということは集中力が分散するわけだから、そうなったらこっちのものでした。

テーマ8:カウントの整え方は?

「臨機応変に攻めていく」

 ストライクを取るには空振り、見逃し、ファウル(ノーストライク、1ストライク時)とありますが、それを臨機応変に使う。例えば右投手がマウンドにいて、ファーストストライクは8割方、引っ張る左打者を打席に迎えたとします。そしたらインコースにスライダーを投げ込む。それがファウルになって、1ストライク。その打者が2ストライク目からはセンター中心に打ち返す傾向があるなら、次はどういうタイミングでスイングするのかというのを見るためにインサイドにボールを投げる。そこから広げていくのが根拠のあるリードになります。

 とにかく、それを駆使して投手をいかに1球でも、1人でも、1イニングでも長く投げさせることができるかが捕手の醍醐味でしょう。

テーマ9:コントロールが抜群の投手をリードするのは楽しい?

「余計に集中力を増さないといけない」

 コントロールがいい投手ほどリードに気を使います。確かに要求したところに確実に投げてくれるのはラクですけど、それは楽しいとイコールではない。コントロールがいいだけに、バッターが狙っているところに投げ込んでしまったら捉えられる可能性が上がってしまいます。

 例えばバッターが外角甘めからギリギリのスライダーに狙いを定めていて、そこへサインを出してしまったらいけません。コントロールがいいと、きっちりと投げ込んできますから。プロのバッターなので、狙った球は高い確率で打ち返す力はあります。狙いに気がついたら逆にインサイドに突っ込む。とにかく余計に気を使うというか、集中力を増さないといけません。

(取材・構成=小林光男)

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