俊輔と磐田に起こりつつある“化学反応” 自身とチームとの最適解を探して
ホームデビュー戦で感じた“違和感”
第2節の仙台戦、俊輔は初の国内移籍後のホーム初戦に“違和感”を感じたという 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
J1第2節のベガルタ仙台戦、試合前のシュート練習では得意の左足からのボールがことごとく枠を外れていた。ジュビロ磐田の新背番号10にとってもホームデビュー戦となる、ヤマハスタジアムでの今季初ゲーム。レフティの揺らすネットは、ゴール枠内のそれではなく、開始前から高らかに歌い上げるゴール裏のサポーターの前に張られた防護用の網だった。
「うん。確かに……変な感じだった」。中村俊輔はポツリとこぼした。
イタリアに旅立つまで、俊輔にとっては難攻不落の“完全アウェー”なスタジアムだったはずだ。黄金時代にあった磐田に対して「あのころはまったく歯が立たなかった」と負け試合しか思い浮かばない地が今、新たな“家”となっている。緊張という言葉が当てはまらなくとも、初の国内移籍後のホーム初戦に“違和感”を感じたとしても致し方ないだろう。
奇妙な感触の上乗せとなっているのは、背負うものの重さかもしれない。「期待だとか、いろいろなことは分かっているので、あとはグラウンドで示すのが一番だと思っています」。今年初め、詰め掛けた100人近くの報道陣の期待感が充満するクラブ新体制発表の場で、硬い表情でそう話していた。
その期待とは、自身の好プレーだけにはとどまらない。「(経験から)自分が落とせるものを落として、クラブが良い方向にいくのなら、うるさいかもしれないけれど口も出すかもしれない」。名門再建という大きなタスクの一部を託されている。
選手として自身が輝くことと、チームを引き上げること――。そのバランスの最適解を探している。新天地でのプレーの難しさを説くにあたり俊輔が例に挙げたのは、15年近く前の経験だった。
「(ホーム初戦は)客観的に見すぎちゃった。レッジーナの時みたいな感じのイメージでチーム全体を見て動いているけれど、やっぱり自分の好き勝手というのではないけれど、そういう感覚をもっと大事にしたい。だから難しいんだよね。チームのバランスを見て動くということ、自分はこうしたいから周りの人にずっと要求していくこと、どっちを取るか」
初の海外挑戦ながら「助っ人」として背番号10を与えられた、20代前半だったころのこと。今の立場に重なるものがあるのかもしれない。
チームの今季初得点は俊輔の左足から
チーム今季初得点は第3節の大宮戦。俊輔の左足から生まれた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
新天地での葛藤が形を成したのだと、本人が明かす。「尻もちをつきながら、ダイレクトで出したあのパス。走り過ぎていたから、ターンした時に足にきちゃっていたんだよね。初戦も走り過ぎたのに、それ以上に走っているから。オレ、走る選手じゃないのに」。だが俊輔は、走ることをやめなかった。
仙台戦の走行距離は、チームでただ一人12キロ台に乗せる12.899キロだった。続く第3節の大宮アルディージャ戦はトップこそ川辺駿に譲ったものの、やはり走行距離は12キロを超えた。だが、走る内容は前節とは違っていた。際立って見えたのは、試合終盤に入ってからの守備時のランニングだった。
開始5分でのチーム今季初得点は、俊輔の左足から生まれていた。ボックス手前でのFKで、人壁を挟んでの相手GKとの駆け引きに勝ち、ゴール右へ鮮やかに左足で突き刺した。加藤順大に対し、「あれはGKは悪くない」。高度な心理戦だったからこその一言は、嫌みに聞こえない。「たかが1勝ですけれど、僕にとっては大きな一歩」。大宮の反撃にさらされた終盤、危険な場面で必死に守備に走ってもたらした今季初勝利を、俊輔は素直に喜んだ。