俊輔と磐田に起こりつつある“化学反応” 自身とチームとの最適解を探して

杉山孝

静岡ダービーで全得点に絡む

清水とのダービーでは、名波監督の判断で右サイドにポジションを移した俊輔が全得点に絡む活躍 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 第5節の一戦も、俊輔には十分に刺激となるものだったはずだ。清水エスパルスとの静岡ダービーで3−1と快勝。予報と違い、やまない雨の中でも詰め掛けた4万人超の観客の前で、俊輔は全得点に絡んでチームに勝利をもたらした。

 開始6分、37分と、長めのFKをゴール前に送って2得点を導く。ハーフタイムを挟んで後半の開始から3分後、逆襲に移ろうとする清水を突き放す3点目の起点となった。ボールを受けるやゴール前で右に流れる川又に縦パスを送り、ぱっくり開いたコースへ走り込んだ川辺がゴールをたたき込むと、俊輔は大地に振り下ろすように握った拳を力強く突き出した。

 この試合、俊輔はそれまでのトップ下ではなく、右サイドへとポジションを移していた。チームの状況を分析した名波浩監督の判断は、俊輔とチームに新たな効果をもたらした。開幕からは「昔のトップ下じゃないけれど、スルーパスだけ狙っていた方がいいのかなと思ったり……」と、自分の“一発”への期待値にそぐうプレーのバランスを模索していた。その中で、ボールを受けると1タッチでボールを送る展開が増えていた。

 だが、「ボールを持った時、昔のプレーを見てもそうだけれど、オレはドリブルするんだよね。ドリブルしながら時間を作ったりするから」と俊輔。この清水戦、トップ下と比較して相手からのプレッシャーの少ない右サイドで、ドリブルからプレーを始める機会が多かった。そのタメが生み出す時間が、チームメートに大きな余裕を与えていた。磐田のチーム総走行距離は、今季初めて1試合で120キロを超えた。

初めて経験する、横浜でのアウェーゲームへ

4月8日、俊輔は名波監督が「俊輔ダービー」と称した古巣である横浜F・マリノスとの一戦に臨む 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 開幕前、俊輔は去年いた選手たちの名前を挙げながら、新チームの変化についてこう話していた。「単にジェイの代わりに川又、オレが小林(祐希)くんの代わりになる、だけではつまらない。そこで違う色にしたら、じゃあどうなるのかな、という“化学反応待ち”みたいなところがあるのでは」。その予言は、現実になりつつある。俊輔自身の中での、化学反応も含めて。

 4月8日にもまた、とびきりの刺激が俊輔を待っている。清水戦後、本人は「平常心」で戦うと話すにとどめたが、名波監督が「俊輔ダービー」と称した古巣である横浜F・マリノスとの一戦だ。

 キャリアで初めて経験する、故郷・横浜でのアウェーゲーム。その「違和感」は、誰よりも俊輔本人が強く感じることになるはずだ。

 それもまた、俊輔と磐田の変化を促す大きな触媒となる。

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著者プロフィール

1975年、ジーコとストイコビッチと同じ3月3日生まれ。新聞社で子供からプロまで5年間、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を務め、2012年7月まで同サイトの日本での確立・発展に尽力。現在はライター・翻訳者・編集者としてサッカーとスポーツを追い続ける。サッカーW杯取材は現在のところ02年、10年の2大会。

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