戦力の融合で1段階上を目指すFC東京 “大型補強”が促したサブ組の奮起
ほとんどの選手が公式戦を経験し、戦力化が完了
そしてピーター・ウタカである。8日にU−20日本代表候補と戦った練習試合で35分間の試運転を経験してから、測ったようにちょうど1週間後の15日、ルヴァン杯で爆発した。
広範囲の空間把握とやわらかなボールタッチによるゲームメーク、シュートかと思わせておいての相手の意表を突いたパスによるアシスト、正確かつキーパーの狙いを外すPKでのゴールで、能力の高さを証明した。人柄も素晴らしい。誰にでも等しく優しい、人懐つこい性格で、すでに周囲の信頼を得ている。おそらく、彼を嫌う人間は少ないだろう。いくらでもボールが集まってくる光景は、彼が陽気な王様であることを物語っている。キャプテンの森重から、早くチームになじんでほしいとPKを譲られ、それに応えたウタカは、試合後のミックスゾーンでその配慮に感謝しきりの様子だった。日本人以上に謙虚な“ウタ”は、ゴール裏で声を上げるサポーターの心もわしづかみにした。
ルヴァン杯での勝利は喜ばしいものだった。そこまでのリーグ戦3試合とはうって変わって前からプレッシャーを掛ける積極的な守備、圧倒的にボールを支配する攻撃で、相手を押し込み続ける内容。開幕から2連勝と幸先の良いスタートを切ったものの、第3節でG大阪に敗れプラスだった得失点差の貯金をすべて吐き出し、やはり今シーズンも駄目なのか――という気配が漂った直後の公式戦だっただけに、重い空気を払いのける、格別の1勝となった。
何より、これでほとんどの選手が公式戦を経験し、戦力化――キャスティングが完了したことが大きな意味を持つだろう。故障離脱者を除き、皆がスタートラインに立つことができた。
ルヴァン杯大勝後の記者会見で篠田善之監督は「ベンチで出場機会をうかがっていた選手がこういう姿勢を示し、チームにとって良い結果をもたらしてくれました。これで、よりチーム内の競争が激しくなる。ああいう姿勢で臨まなければピッチに立てない、というのをみんなが示してくれた」と、それまで“サブ”扱いだった選手たちを評価し、次戦以降の起用には「結果を残した選手が試合に出られるということは以前から伝えている」と含みを持たせた。
“大型補強”の真の効果とは?
「コンディション、疲れ具合と相談しながら、それでも使いたい選手は使います」
ドアは常に開かれている、ということだ。
篠田監督はルヴァン杯の試合前、「ルヴァン杯の開催は、タイミング的にはわれわれにとって、とても良いものだととらえています」と言っていた。
“大型補強”の新加入選手を含む主力組のほころびが出始めたタイミングで、ターンオーバーを試みる機会がめぐってきた。この日程が天佑神助(てんゆうしんじょ)だったとすれば、篠田監督は強運の持ち主ということになるし、序盤の3試合でつまずくと予想して現有戦力の運用を進めていたのだとすれば、相当の策士だということになる。いずれにしろこの指揮官は、何かを持っているのだろう。
2月の宮崎キャンプでは、チームをあえて主力組とサブ組の2つに分けて練習試合を実施した。「はっきりさせたほうがいい」というのが篠田監督の考えだった。もし両者をシャッフルしたメンバー構成で試合を続けていたら、新戦力の問題点が露呈せず、控えに回る選手たちの士気は上がらなかったかもしれない。
しかし格差をつけたことで、サブ組のモチベーションははね上がった。それは阿部拓馬と中島翔哉、2人がそれぞれマークしたルヴァン杯の2ゴールに表れている。既存の選手たちの尻をたたき、1段階上の力を発揮させる――。これこそが、大型補強の真の効果だったのではないだろうか。
そしてもちろん、突き上げを食らっている選手たちは、多摩川クラシコで奮起しなければならない。「クラシコだし、勝たないと意味がない。連敗するチームは上には行けないので、そこ(連敗)だけは避けたい」と、大久保は捲土(けんど)重来を期している。
ルヴァン杯で見られたひたすら前に向かう戦いぶりは、彼にとっても望むところだろう。これまで発揮し切れなかった力が、攻撃的なサッカーのリズムに乗って放たれるかもしれない。多くの選手が手応えをつかんだチームで、これまでうまくいかなかった大久保までもが結果を残すことができれば、その足跡が2017シーズンのFC東京がようやく踏み出す、融合に向けた一歩となるだろう。