エースの誤算を吹き飛ばした理想の攻撃 効果的なつなぎと一発でキューバ撃破

中島大輔

久々の1番起用で1試合2本塁打と結果を出した山田 【写真は共同】

「自分らの野球をしようという感じで臨みましたけど、変な感じはしましたね」

 第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝ラウンド進出を大きく引き寄せた3月14日のキューバ戦で殊勲者の一人となった山田哲人は、この日の相手についてそう振り返った。

 野球日本代表「侍ジャパン」は初回に先制しながらすぐに逆転され、追いついては勝ち越される展開で終盤へ。2日前、中盤から1点逃げ切りを図ったオランダ戦とは違った意味で、苦しい戦いを強いられた。

前回とは何かが違ったキューバ

「同じチームと2度目というのは非常にやりにくさを感じました」

 試合後、小久保裕紀監督はそう明かしている。さらに1週間前、1次ラウンド初戦で対戦したキューバは、負ければ準決勝進出が難しくなる状況だった。そうした要因が重なり、山田は「前回とは何かが違う」と感じたのかもしれない。

 先発を託されたエース・菅野智之が4回までに74球を投げて4失点で降板。侍ジャパンにとって大きな誤算だっただけに、指揮官は「打線が粘り強く追いついて、中継ぎも頑張って、よく逆転したなと思います」と振り返った。ブルペンは3番手の増井浩俊が1点を奪われたものの、他の4人は無失点。そうしたなかで逆転勝ちを収めることができたのは、小久保裕紀監督の掲げる攻撃をできたことが大きかった。

打撃練習から復調気配あった山田

打撃練習から復調気配を感じていたという山田は第1打席でいきなり先頭打者本塁打 【写真は共同】

「動かさないといけない選手と、そうではない選手をある程度分けています」

 8日のオーストラリア戦後、指揮官は戦い方をそう説明した。「動かさない選手=筒香嘉智&中田翔の中軸」には打って返すことを求めつつ、ほかの打者の場面では小技や足を絡めていく。14日のキューバ戦では動く場面こそほとんどなかった一方、主軸の一発とつなぎの攻撃が見事にかみ合った。

 その先陣を切ったのが、1番に戻った山田だ。2日前のオランダ戦では相手先発バンデンハーク対策として左の田中広輔を1番で起用したが、積極性と一発を兼ね備えた山田こそリードオフマンとして理想だと指揮官は考えている。ここまでの4試合で17打数3安打といまひとつの状態だったものの、キューバ戦の前の打撃練習では「左中間に自分の打球が打てていたので、いいなと思っていました」と復調気配をつかんでいた。

 それらが結実したのが初回の1打席目だった。相手先発バノスが真ん中高めに投じたカットボールを思い切りたたき、練習と同じく左中間スタンドに突き刺した。

「今日の先頭打者ホームランは、1番打者として一番いい結果だと思います。それ以上にない結果なので、素直にうれしかったです」

青木のスタイルがチームにいい影響

5回1死二三塁のチャンスで打席に立った青木。ボールに食らいつくセカンドゴロで三走を生還させた 【写真は共同】

 そして2対4とリードされて迎えた5回裏、狙い通りの攻撃で再び試合を振り出しに戻した。

「2点差を追いかける場面では、とりあえず1点を取りにいこう」

 数日前のミーティングで稲葉篤紀打撃コーチが出した指示を、3番・青木宣親が実践した。

 9番・小林誠司のレフト前安打、1番・山田の四球を2番・菊池涼介がきっちり送って1死二三塁。青木は2球で2ストライクに追い込まれた後、1点狙いに切り替え、セカンドゴロで三塁走者を生還させた。続く筒香にセンター前タイムリーが飛び出し、4対4の同点に追いついた。

 打率1割8分8厘と思うように状態の上がらない青木はミックスゾーンでの呼びかけに応えずに去った一方、チーム打撃に徹した姿勢を稲葉コーチは評価する。

「まさにミーティングで話していた場面が来て、1点取れば必ず試合は動くと思っていました。あそこは相手守備が下がっていたので内野ゴロを打てば1点入りますけど、それができる選手とできない選手がいます。青木選手の何とかボールに食らいついてやるという彼のスタイルが、その後チームにいい影響を与えたと思います」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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