エースの誤算を吹き飛ばした理想の攻撃 効果的なつなぎと一発でキューバ撃破

中島大輔

効果的だった秋山のつなぎの一打

8回、「自分の中で状況とやるべきことを整理して打席に入れた」という秋山はレフト前ヒットでチャンスを広げた 【写真は共同】

 再び1点を追いかける8回には、つなぎと一発が効果的に飛び出した。

 1死から7番・松田宣浩が相手エラーで出塁すると、続く秋山翔吾はスライダーを引っ張ろうと考えて打席に入った。6回途中から登板したラエラが、横の変化を多投していたからだ。初球は外角低めのスライダーをファウル。続く2球目は狙いと違う145キロのストレートだったが、真ん中に来たところをうまくたたいた。

「あそこは(松田が)出塁して押せ押せの場面。狙い球はスライダーで結果的には真っすぐを打ったんですけど、自分の中で状況とやるべきことを整理して打席に入れたので、いい結果になったと思います」

スライダーに絞ってフルスイング

8回、前の打席の三振ゲッツーから気持ちを切り替えた山田はスライダーに絞ってフルスイング。結果、この日2発目となる2ランを左中間にたたき込んだ 【写真は共同】

 秋山のレフト前安打で1死一三塁とし、代打・内川聖一がライトに犠牲フライを放って勝ち越し。そして山田が初球の外角高めスライダーを思い切り振り切り、左中間スタンドにツーランを突き刺した。

「スライダーに絞って、フルスイングという感じでいきました。その前の打席は得点圏でそのスライダーを空振り三振して、三振ゲッツーという最悪なパターンで終わってしまった。それをひきずらないようにというか、前向きにスライダーを打ちにいきました」

 6回、小林のレフト前タイムリーで5対5の同点に追いついた後、山田は三振ゲッツーでチャンスを潰した。「ちょっと(打撃の形が)崩れているかなというのはありました」と言うように、まだ完全復調しているわけではない。それでも次の打席で結果を残すことができたのは、原点に立ち返ることができたからだった。

「気持ちに波があれば、結果にも影響が出ます。それは3年前くらいから、プロ野球選手になって一番学んだことです。切り替えが大事というのを常に忘れないようにしています」

接戦を勝つことの大事さ

小久保監督が「動かさない選手」と明言する4番・筒香もこの日は3安打2打点の活躍 【写真は共同】

 1番に戻った山田が2本塁打、4番・筒香が猛打賞と主軸が期待に応え、つなぎや内野ゴロでの得点も絡めてキューバに逆転勝ちを収めた。勝利打点を挙げた内川は試合後、チームの成長についてこう話している。

「前の試合(オランダ戦)もそうですけど、接戦を勝つことの大事さを改めて感じさせてもらっています。全員が同じ方向を向いて、全員が勝つんだという気持ちでやれる集団はこれだけ心地いいんだなと感じています」

 これで1次ラウンドから5連勝。15日のイスラエル戦を余程の大差で落とさない限り、準決勝進出が決定する。2次ラウンドで激突したオランダ、キューバより数ランク上のアメリカやドミニカ共和国、プエルトリコ、ベネズエラという強豪が待ち受ける戦いに向け、エース・菅野の4回降板という誤算を乗り越えつつ、中継ぎ、攻撃ともに狙い通りの展開で勝った意義は非常に大きい。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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