迫田と木村、共に歩んだ長い戦いの終わり 「沙織さんは、強い人でした」

田中夕子

トヨタ車体戦で見せた木村の圧巻のプレー

ファイナル6、トヨタ車体クインシーズとの一戦で見せた木村のパフォーマンスは圧巻だった 【坂本清】

 シーズン開幕当初は木村も迫田もなかなかコンディションが上がらず、チームも苦戦を強いられた。だが、攻撃型布陣を選択した昨年末から勝ち星を重ね、木村が「一時は初めて入れ替え戦に行くのかもしれない、ということも考えた」という状況から浮上し、レギュラーラウンドを6位で終え、ファイナル6へと駒を進めた。

 レギュラーラウンドの順位によって加算されるポイントも6位通過の東レは0、厳しい状況に変わりはなかったが、勝利やフルセットでのポイントを重ねた結果、他力ではあったが最終節までファイナル3進出の可能性は残された。

 負けたら終わり、という状況の中で迎えた3月4日のトヨタ車体クインシーズとの一戦。この試合で見せた木村のパフォーマンスは、まさに圧巻だった。

 ファイナル6でJT、NECを打破するなど破竹の勢いで勝ち進んできたトヨタ車体。その原動力はアゼルバイジャン代表の大砲、ポリーナ・ラヒモワ。レギュラーラウンドではレフトに入ったが、ファイナル6はオポジットの位置に入ったラヒモワの攻撃に対応し切れず、多くのチームが苦戦を強いられた。

 加えて、今季から加入したミドルブロッカーの荒木絵里香のブロックが攻撃時にはプレッシャーとなり、相手のスパイクを切り返してラヒモワが決める。勝ちパターンが出来上がりつつあるトヨタ車体は、簡単に勝つことのできない力を持った相手だった。

 大事な一戦を前にした緊張感が漂う中、木村が迫田に言った。
「絵里香さんがいても気にせず打っていくから、リオ、フォローお願い」

迫田から木村へ、心からの感謝を込めて

「沙織さんがいなかったら、私もここにいなかったかもしれない」と迫田(左)は振り返る 【坂本清】

 試合が始まると、まさにその言葉通り、自身の前で跳ぶブロッカーが誰であろうと、木村は果敢に攻撃を仕掛ける。ただ間を抜いたり、当てて外に出すだけでなく、バックセンターにラヒモワがいればラヒモワにボールを取らせてバックアタックを封じようと、ラインギリギリの場所にボールを飛ばして走らせ、前衛にいる時はショートサーブやフェイントでラヒモワを動かし、攻撃への準備を遅らせた。

 徹底して相手の軸となる選手にプレッシャーをかけ、自チームの流れを引き寄せる。その姿を「あらためてすごいなぁ、と思って見ていた」と言う迫田に、木村から試合中にアドバイスがあったという。

「少しきつい二段トスが上がってきたときに、私は助走をとれなかったので、その場跳びで何も考えずに打ちやすい方向、リベロがいるほうに打ってしまったんです。そうしたらすぐ、沙織さんから『たとえ返すだけでもストレートにポリーナさんがいるから、そこに打っていったらいいんじゃないかな』って。一瞬一瞬、いろんなことを考えながらプレーしているから、沙織さんの言葉はすごく重いんです」

 試合後、荒木が「今日の沙織は、誰が見ても素晴らしいパフォーマンスだった」とたたえたように、木村の活躍で勝利を収めたのは東レ。前回の対戦時の反省を生かした、という木村はこう言った。
「絵里香さんが一番、私の打つ時のクセを知っていると思ったので、自分のクセをなるべく消して今日は打とうと思っていました」

 これが最後、と思えない対応力。他ならぬ、荒木が言った。
「やめてしまうのがもったいない、と心から思いました」

 木村と迫田。2人のエースにとって特別なシーズンは、ファイナル6で幕を閉じた。
 最後まで「いつも通り」を貫き、引退に関するコメントをあえて避けた木村に対し、目を赤くした迫田が言った。

「沙織さんがいなかったら、私もここにいなかったかもしれない。私のバレー人生、ずっと沙織さんと仲間として戦えたことが、本当にうれしかった。沙織さんは、強い人でした」

 心からの感謝を込めて。共に歩んだ、長い戦いの日々が、終わった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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